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「わたくしたち、見ていたわ。きっとレティシア様、あんなことを言うおつもりじゃなかったんでしょう」
そう言ってご婦人は決まりが悪そうに目を伏せた。
リリアーナは驚いていた。まさかお茶会であんなにレティシアに怯えていた彼女から、そんな、レティシアを庇うような言葉が聞けるなんて。
お茶会でサーシャが上手く間を取り持ってくれたこと。ふたりで相談して決めた謝罪の品。そしてレティシアが真心を込めて書いた手紙。そのどれもが無駄ではなかったのだ。
レティシアが起きていたら、どんなに喜んだろうか。
「今まで噂しか知らなかったけれど……レティシア様はきっと、わたくしたちが思っているような人ではないのよね?」
ご婦人は確信めいた口調でそう言った。彼女たちもきっと、疑問に思っていたのだろう。まさに以前のリリアーナのように、噂の中のレティシアと、丁寧な謝罪の手紙の主が一致しないことに疑問を抱いていたのだろう。
そして今、失神している彼女を見て確信したのだ。「悪魔令嬢」の噂が、事実とは違っているということを。
もう1人のご婦人も、彼女と同じ気持ちだったようで、コクリと小さく頷いた。
「わたくしも、見たわ。レティシア様はなんだかご気分が優れないようだった。ご自分でも立てないくらいに」
刺繍のハンカチーフを貸してくれたご婦人がその言葉に被せるようにして続ける。
「おかしいわよね。それなのにどうやって歩いていらしたの?」
リリアーナはハッとした。確かに、ダンスを終えたレティシアが自らダンスホールへ戻って来る理由はないのだ。ただでさえ人見知りの彼女が、フラつく体を引きずって、リリアーナの言いつけを破ってまで、ダンスホールへきた理由。
それはリリアーナにも分からなかったことだった。
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