届いた思い

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 「レティシア様がノア様に抱きついた時もおかしかったわ。まるで……誰かに突き飛ばされたみたいだった」  「それは、つまり……」  悪意の気配を感じて、リリアーナは口元を押さえた。指の先が痺れるような、なんとも言えない嫌な感覚が全身をじわりと蝕む。  確かに、レティシアを恨んでいる人は少なくないだろう。そういう人がいるからこそ彼女は「悪魔令嬢」として国中に名を馳せているのだから。けれど、その恨みに彼女が晒されることはなかった。彼女はつい最近までずっと自室に籠っていたから。  だから存在していると分かっていても、直視したことはなかった。レティシアへの恨みを。それが今初めて、目の前に形を持って現れたように思えて、リリアーナは思わずレティシアの手を握った。  「わたくしたちも、『誰か』を見た訳ではないの。けれど、少なくとも、ノア様に抱きついたのはレティシア様の意思ではないように見えたわ」  ハンカチーフのご婦人は興奮しているのか少し早口でそう言った。彼女も予感しているのだろう。「悪魔令嬢」の噂を覆す、得体の知れない本当の悪意の存在を。  「気をつけなさいね。ここに集まったのは豊かな富を持つ人たちだけれど……心まで豊かな人ばかりではないから」  ふたりのご婦人はそれだけ告げて、レティシアが眠る部屋を去っていったのだった。
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