人生、終わった。

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 長い走馬灯を見終わったリリアーナは、ぎこちなく顔を上げた。  怒りで声も出ないのか、レティシアは俯き黙ったまま肩を震わせている。女性にしては身長の高い彼女が背を曲げて顔を俯かせていると、まるで大きな枝垂れ柳のようだ。不気味な迫力にリリアーナは思わずジリ、と後ずさった。  レティシアはなおも沈黙している。  さすがのリリアーナでもここから巻き返せるとは思っていなかった。なにせこの家にきたのは数日前。ずっと拒まれていたから、レティシア様にお会いしたのはお顔合わせも合わせて今日で2回目。しかも今のこれは全くの偶然で、リリアーナが人形を真っ二つにしてしまったところへ、運悪く彼女が帰ってきてしまったという最悪のシチュエーションだった。  もういっそ今バッサリとクビをはねてくれたら楽なのに、などと考えてしまうほど、辺りには妙な静けさが漂っており、それがまた一層恐怖を駆り立てる。  もちろんできれば死にたくはないが、リリアーナには「罰せられても仕方がない」という諦めも湧いてきていた。リリアーナがレティシア様の大切な物を壊してしまったことは変えようのない事実なのだ。  恐怖と拮抗するように、膨れ上がってくる諦念と罪悪感。そうだ、せめて命あるうちにお詫びしなくては。相手が誰であろうと悪いのは自分なのだから。  「申し訳、ございません……」  リリアーナは深く首を垂れた。すると、ずっと黙り込んでいたレティシアもようやく口を開いた。
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