雛鳥と心配の種

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 レティシアが意識を取り戻した頃には、舞踏会もお開きになっていた。レティシアに聞きたいことは山ほどあったが、彼女の両親が心配するといけない。  ふたりは馬車を走らせ急いで帰宅し、普段は不干渉気味だがさすがに今夜ばかりは事情を聞きたがってくる両親をかわし彼女の部屋へ。  ようやく安心できる場所へ戻ってきたレティシアは、着替えもそこそこに、あっという間に眠りについたのだった。  * * *  あれから数日。激動の日々を乗り越えたリリアーナとレティシアは、再び穏やかな日常を取り戻していた。  リリアーナを含むモンフォルル家の従者たちのほとんどは、家の地下にある従者用の居住スペースに各々の部屋を持ち、住み込みで働いている。  この居住スペースにモンフォルル家の人間が立ち入ることは滅多にない。用があるならベルを鳴らせば、誰かしらが駆けつける。熊に追われて逃げてきたとか、そういう緊急のことがない限りは、基本的にモンフォルル家の人間が地下へ降りる理由はない。ないのだが。  星もうっすら見えるほどに、夜を残した早朝。階段を降りるトタトタという足音。その音がリリアーナの部屋の前で止まったかと思うと、控えめに聞こえてくるノックの音。  「リリアーナ」  驚いて扉を開けると、お気に入りの人形を抱えたレティシアがネグリジェのままリリアーナを見下げていた。  「レティシア様! おはようございます。こんなに早くに、いかがなさいました?」  もちろん、リリアーナはレティシアが熊に追われてきたのではないことを分かっていた。彼女にこの部屋で一番上等な椅子を譲り、自身は跪いて彼女と目を合わせる。  舞踏会の後、色々と変わったことがあった。ごくたまに、レティシアはアリシア夫人のお茶会に参加するようになったり、アリシア夫人のお茶友だちのご婦人たちはレティシアを怖がらないようになったり、謎の美男子をお茶会やらパーティーやらに誘う手紙が届いたり。  しかし一番変わったのはだろう。
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