雛鳥と心配の種

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 「リリアーナが、いなかったから」  レティシアはそう言って恥ずかしそうに目を逸らした。  そう、一番大きな変化はレティシアのこの態度だった。何度も窮地を助けられ、すっかりリリアーナに懐いたレティシアは、寝ている時とお手洗いに行く時以外雛鳥のようにリリアーナの側にピッタリとくっついて過ごすようになった。  どうやら今朝は、目が覚めたらリリアーナが居なかったことに驚いて、こんなところまでやってきてしまったらしい。  普通なら自分の主人がこんなところに出入りしていたら大慌てだろう。リリアーナも最初の1回はそうだった。しかしそれが何度も続くとさすがに慣れてくる。今のリリアーナには、レティシアに膝掛けをかけてやるくらいの余裕があった。  舞踏会のあと、目を覚ましたレティシアは怯えながらも自分を連れ去った男のことを語ってくれた。  リリアーナにとっては当たってほしくない予想が当たった形になって少し落ち込んだが、それをレティシアに悟られる訳にはいかない。  レティシアを恨む何者かが、今後も彼女に危害を加えてくる可能性は高い。それならばいっそこのこのをレティシアに伝えて、彼女を守った方がいいのかもしれない。  しかしひとつ疑問が浮かぶ。レティシアを連れ去った男は、舞踏会の時レティシアに直接的な危害を与えることもできたはずなのだ。けれど男はそうしなかった。成功するかも定かではない、回りくどい方法で彼女を陥れようとした。  これはきっと、その男……ひいては、男の背後にいる何者かが、それなりの地位の人間であるということなのではないだろうか。  レティシアを直接的に傷つけ、苦しめることは簡単だが、そんなことをすれば彼女の両親が黙ってはいない。国を揺るがす大事件として念入りな捜査が行われるだろう。  それによって犯人が暴かれ、家名を傷つけられては困るような、そんな地位の人間が裏にいるのではないか……とリリアーナは推理していた。
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