雛鳥と心配の種

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 今のところ直接手を下してくるような危険性はない。それならば彼女を傷つけないために、ひっそりと彼女を守っていくのが得策だろう。  もちろんリリアーナだけの力でレティシアを守ることは難しい。だから、彼女の両親にはそれとなく報告しておいた。これで多少護衛が増えたり、監視が厳しくなったとしても不自然なことではない。レティシアがなにかに勘づくこともない。  守りは万全とくれば、あとはその何者かのことを秘密裏に調べて、問題を解決すればいいだけ。レティシアは今、とてもいい方向に向かっていると思う。だからこのまま、なんの心配もなく前を向いて進み続けてほしい。そのためにも、普段通り振る舞うのがリリアーナの役目。  「リリアーナ、だい、じょうぶ?」  不安感が顔に出ていたのだろうか。豊かな表情を褒められることが多いリリアーナだが、こういう時につい思っていることが顔に出てしまうのは玉にキズだ。  「あ……いえ……大丈夫ですよ」  リリアーナは内心焦りながらも作り笑いをした。さすがのレティシアもその表情には違和感を覚えたのか、訝しげに眉を顰める。  レティシアがそういう顔をすると相変わらずギョッとするほど怖いのだが、特訓のおかげか、リリアーナにはちゃんと見分けがついていた。これは心配の表情だ。  長い文章を話すのはまだ難しいようで、レティシアは手帳を取り出した。どこへ行くにもこの手帳とペンはすっかり必需品となっている。レティシアはサラサラとペンを走らせると、例の「心配の表情」で手帳を差し出した。    “お母様から、なにか悪い知らせでも届いたの?”  レティシアはリリアーナの机の上に視線をやった。そこにはレティシアが来る前に読んでいた手紙が散乱している。  「ええ……やっぱり不作が続いているようで。それも終息するどころかむしろ広がっているみたいなんです」  リリアーナが不安そうにしていのはこの悪い知らせのせいだったのだと、レティシアは納得したようだった。
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