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よかった、上手く誤魔化せた。
リリアーナは内心後ろめたさを感じながらもホッとしていた。嘘はついていない。これも心配の種であることには違いないのだ。
リリアーナが多額の仕送りを送っているからまだ余裕を持って暮らせているようだが、きっとそれも長くは持たない。これ以上不作が続くようであれば領民たちの暮らしが立ち行かなくなってくる。そうなればリリアーナの両親は身銭を切って領民たちを助けようとするだろう。彼らはそういう人たちだ。
早いうちに原因を突き止めなければ、お家が没落するとか言っている場合ではなくなってくる。人の生き死にに関わってくる大問題だ。
「肥料を撒いてみたり、いろんな治療薬を撒いてみたり……手は尽くしているようなのですが、どんな作物も枯れてしまうみたいで」
“それは心配ね。お父様に相談してみましょうか?”
「ありがとう存じます。ですが、心配には及びません。父が国の調査団に派遣要請をしたそうなので、きっと今度こそ原因が分かると思います」
“それなら、いいのだけど”
レティシアは少し安心したのか、小さく欠伸をした。それを見てリリアーナは今があまりにも早朝だということを思い出す。いつもならレティシアもまだぐっすり眠っている時間だ。それは眠いはずである。
「レティシア様、お部屋へ戻りましょう。ここは冷えます」
「でも……」
寝かされてしまう、と気づいたレティシアがささやかな抵抗の声を上げる。彼女はどこまでもリリアーナと一緒にいたいのだ。それはもう、眠っている時までもずっと。
「大丈夫ですよ、ずっとお側におりますから」
「……ほん、とう?」
「ええ、本当ですよ」
ごめんなさい、レティシア様。めちゃくちゃ嘘です。
リリアーナはにっこり笑って、膝掛けをレティシアの肩にかけ直した。日中ピッタリとリリアーナにくっついているレティシアは、思ったよりも大人しく立ち上がる。フラフラと歩き出した彼女の背中をリリアーナは優しく支えた。レティシアも本当は眠くて眠くてしょうがなかったのだ。
早起きの小鳥の鳴き声を聞きながら、ふたりはレティシアの部屋へと戻っていった。リリアーナに言いくるめられて、まんまと寝かされてしまったレティシアは、次に目が覚めた時にようやく騙されたことに気づいたのだった。
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