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「一体どういうことですの……? わたくしの片翅の君は……?」
抵抗する間もなく椅子に座らせられ、紫のドレスの令嬢は混乱している様子でぶつぶつと呟いていた。しかし混乱の最中にあっても彼女のエメラルド色の瞳は真っ直ぐリリアーナを見つめ続けている。
レティシアはリリアーナの後ろに座ってぷるぷる震えながら、でもやっぱり令嬢が気になるのか、時折顔を覗かせ様子を伺っている。リリアーナは怯える主人を背に庇いつつ、どう言い訳したらいいものかと、頭をフル回転させていた。
「……先程のご無礼をお許しください。レティシア様にどのようなご用事でしょうか」
「いいえ、レティシア様に用はないわ。わたくし、あなたを探しにきたの。まさか女性だったとは思わなかったけれど」
……ですよね~。
リリアーナは冷や汗をかきながら頭の中で相槌を打った。
そう、このご令嬢はリリアーナに会いにきたのだ。いや、正確に言えば舞踏会の時の「男装していたリリアーナ」か。リリアーナが女性だったことに驚いているということは、十中八九そういうことだろう。
一部で噂になっているということは知っていたが、まさかモンフォルル家に直接乗り込んでくる者が現れるとは。
「あなた、舞踏会でレティシア様のパートナーだった方よね? レティシア様の“片翅”として舞うあなたを一目見てからずっと……お会いしたかったわ」
なるほど、蝶の家紋を持つモンフォルル家の一人娘、レティシアのパートナーだから「片翅の君」か。そんな異名までついていたとは。
性別が違うというのに、リリアーナを「片翅の君」と信じて疑わない令嬢。彼女は「レティシアなど眼中にない」といった様子で、リリアーナに向かってうっとりと微笑んだ。
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