78人が本棚に入れています
本棚に追加
/127ページ
迂闊にファミリーネームを名乗って家系を調べられたりしたら、兄がいないことがバレてしまうから一応伏せておく。最もキャロラインはもう嘘だとバレてしまっているようなものだが。
「リリアーナ……リリアーナと言うのね」
キャロラインはまたあのうっとりした表情でリリアーナの名前を呟くと、ふわふわした足取りでリリアーナとレティシアの方へと近づいてきた。リリアーナは思わずレティシアを庇おうとして行儀よく前で重ねていた手を解く。
しかしその手は目的を果たす前にキャロラインに掬われて、がっしりと握り込まれてしまった。
リリアーナの背中に悪寒が走る。蛇に睨まれた蛙のように身動きできなくなっている彼女を見つめたまま、キャロラインはさらにぐっと近づいた。
や、やられる……?!
戦慄したリリアーナの頬に、予想外の柔らかな感触。
彼女の背後でずっと小さくなっていたレティシアが、ガタガタッと音を立てて立ち上がった。恐怖より驚きが勝ったらしい。
もちろんリリアーナもレティシアと同じくらい驚いていた。さっきまでは恐れで身体が固まっていたが、今は驚きで身体が固まっていた。
だってまさか、キスされるなんて。
「ねえ、リリーと呼んでも? わたくしのことはキャロルと」
「リッ……?!」
キャロラインは絡みつくようにしてリリアーナの腕を抱えた。
レティシアが声にならない声を上げて反対側の腕を引っ張る。両方から引っ張られながらリリアーナは「両手に花だなあ」などと思った。困惑も行き過ぎると冷静になるらしい。自分の身に起きていることがまるで他人事のように感じられる。
そういえば確かに、キャロラインは玄関ホールで大立ち回りしながら言っていた。リリアーナに向かって「わたくしの運命の人」と。そしてこの行動。それはつまり、そういうことだろう。
キャロラインはリリアーナに惚れているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!