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しかし解せない。男装のリリアーナに惚れたのなら、リリアーナが女性だと分かった時点で引き下がるものではないのだろうか。
リリアーナにはダンスがあまり上手ではないという残念な自負がある。加えてリリアーナは女性である。それを差し引いてもこんなに気に入られているということは……顔が相当に好みなのだろうか?
「舞踏会で踊っていたのがあなただろうと、お兄様だろうと、どうでもいいわ。今日ここでリリーに出会えたから」
そう言いながらキャロラインはリリアーナの腕に頬擦りした。
と、同時に反対側からキュウウ、という悲鳴とも鳴き声ともつかない奇妙な音。リリアーナが振り向くと、反対側の腕にしがみついているレティシアの口から異音が漏れ出ていた。レティシア様、大丈夫ですか。錆びついた井戸ポンプみたいな音が出ています。
「あの、無粋なことをお聞きしますが……キャロライン様は」
「キャロル」
「……キャロル様は、私のことがお好きなのですか?」
キャロラインはプクッと頬を膨らませた。かわいらしい仕草だが、彼女がかわいさを演出するたびに「このかわいらしい少女は玄関ホールで暴れ回っていた彼女と同一人物」という事実が引き立って冷や汗が垂れる。
「ここまでしてるのに分からない? ひどい人ね?」
その言葉は遠回しな肯定だった。
「しかしながら……私は女ですよ? キャロ……ル様も、驚かれたでしょう?」
「そうね。驚いたけれど、尚更気に入ったわ」
「ええ……」
そこまで言い切られるとリリアーナも閉口するしかない。激しくなってきているキュウキュウ音を反対側から感じながら、リリアーナはどうしたらいいのか分からなくなっていた。
まさかこんなことになろうとは。
「ねえ、そろそろお茶会の時間じゃなくって? わたくしもご一緒しても?」
「いえ、それは流石に……」
「ああ、心配しないで。片翅の君の正体は誰にも言ったりしないわ」
ホッとするリリアーナを見上げ、キャロラインはわざとらしく甘えた声を出した。
「だけどわたくし、せっかくリリーに会いにきたのに……無碍にされたら悲しくってうっかり色々喋っちゃうかも、ね?」
「うっ……」
レティシアはキュウキュウ言いながらブンブンと首を横に振っているが、完全に弱味を握られたリリアーナは、縦に頷くしかなかった。
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