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「仲が良いことは素敵なことだわ。レティシアのこともよろしくね」
アリシア夫人のそのひと言でレティシアの纏う空気はいよいよ冷たくなった。
これには流石のご婦人たちも怯えていた。というかリリアーナも正直めちゃくちゃ怖い。レティシアの怒り顔はこれまで見てきた表情とは比にならないほどに怖かった。
日頃から表情筋を鍛えていたからだろうか。表情が豊かになってきたことがこんな風に裏目に出ようとは。
レティシアの表情は彼女の心の内を渦巻く青白い炎のような静かな怒りを如実に伝えていた。
眉間に刻まれたシワは強い不快感を表し、青いガラスの瞳は奥に燃える怒りを称え、恨めしそうにギュッと噛みしめた唇は力が入りすぎて真っ白になっている。極め付けに全身に纏った真冬のような冷気は、青々と茂っている草木もしなびて見せるほどに冷たく肌を突き刺した。
リリアーナはどうにかしてこの場を脱出したかったが、キャロラインに弱みを握られている以上仮病も使えない。
一方キャロラインは我関せずといった様子でお茶菓子をつまんでいるが、原因は紛れもなく彼女である。隣でレティシアが“悪魔”のような形相になっているというのになにも感じないのだろうか。本当に肝が据わっている人だ。
静かに渾沌としていく空気は留まるところを知らない。リリアーナはもはや神に祈るしかなかった。
「キャロライン様?!」
その空気を割って入ってきた救世主は、アリシア夫人たちと同じくらいの歳に見える女性だった。リリアーナとご婦人たちは彼女が女神に見えていたが、容姿は至って平凡な茶髪の女性である。
彼女はキャロラインを認めると、アリシア夫人に深々と頭を下げた。
「申し訳ございませんでした!」
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