食えない「聖女」

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 海風祭(うみかざまつり)とは、エデンガード王国の2大祭りの内のひとつ、大漁を祈る夏の大祭である。  不漁の年、困窮した海沿いの民たちが海を司る神シィシャンに祈りの舞を捧げたことから始まったという海風祭りは、エデンガード国民が口を揃えて「この祭りがないと夏が来た気にならない」と言うほど愛されており、それはそれは盛大に行われる。その華やかさは、山を越えて他国からも人が集まるほどだ。  「わたくし、誰かがリリーを誘うんじゃないかって思ったらいても経ってもいられなくて……」  キャロラインは頬を赤らめると、急に恥ずかしそうになって地面に目線を彷徨わせた。  ようやく自分の猪突猛進さに気づいたのだろうか。  そんな失礼なことを考えながら、リリアーナはようやく納得していた。キャロラインが、今、この時、どうして連絡もよこさずに、リリアーナに会いに来たのか。  海風祭には、若い男女の間でまことしやかに囁かれている有名なジンクスがある。  思い人と共に海風祭へ行くと恋が成就する、というものだ。  このジンクス、実はあながちただの噂とも言えない。実際にこの祭を境に絆を深める者たちは多くいる。  もちろん、からくりはある。海風祭はちょうど社交界シーズンが終わる頃に開催される祭りだ。夏の始め、最後の社交の場。ジンクスを信じる者も、信じていない者も、皆「秋まで自分のことを覚えておいてほしい」と、こぞって目当ての人物を誘う。そうすると、その大勢の中から何組かは恋人同士となる者たちも出てくる。  そういった者たちが毎年のように現れるものだから、自然と「恋が成就する」などというジンクスが生まれたのだ。  キャロラインは恐らくこのジンクスを耳にしたのだろう。そして、いち早くリリアーナに会いに来たのだ。誰かがリリアーナを海風祭のパートナーに誘う前に。
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