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「ねっ、お願い。いいでしょう、リリー?」
甘える幼子のように袖を引かれ、リリアーナは逡巡した。キャロラインはさっきまでずっと猫を被っていたけれど、今の彼女の言葉は素直なものに聞こえたのだ。
これはどういう意味なのだろうか。断ったらまた脅してくるつもりなのだろうか。それとも、ただ素直にリリアーナを誘っているだけなのだろうか。リリアーナはキャロラインの本心を探るように、言葉を選びながら尋ねた。
「……それは、お願いでしょうか。それとも、ご命令でしょうか」
リリアーナの問の意図を汲んだキャロラインは、真剣な目で彼女を真っ直ぐ見つめる。
「これはお願いよ。わたくしが、あなたと行きたいの」
上目遣いで嘆願するキャロラインの仕草はいたいけな少女そのもので、つい了承してしまいそうになる。
彼女の言葉を信じるなら、リリアーナがどう答えたとしても、彼女は「片翅の君の正体を公言しない」という約束を守ってくれるのだろう。
まあ、リリアーナがいいと言っても、レティシアが許さなそうだが。なんたってリリアーナはレティシアの侍女。どんな時でも主人の側にいることが侍女の務め。レティシアの命令は絶対なのである。
というか、それを抜きにしてもリリアーナはレティシアを支えると決めたのだ。レティシアがどう言おうとリリアーナがレティシアファーストなのは変わらない。
どうやって角が立たないように断ろうか、とリリアーナが考えている一方で、アリシア夫人が嬉しそうに声を弾ませた。
「いいじゃない! 行ってらっしゃいよ。ねぇ、レティシア」
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