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急に名前を呼ばれたレティシアは、自分が怒っていたことも忘れるほどに驚いていた。
まさかの方角からの援護射撃は援護対象であるはずのキャロラインのことまでも撃ち抜いて、リリアーナも含めた皆が揃って鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっている。
「あの、アリシア様、わたくしはリリーと……」
戸惑いがちに口を開いたキャロラインの言葉を遮ったのはこれまた、予想外の人物の言葉だった。
彼女は唐突に立ち上がると、凛とした声で言い放った。
「行きます」
「レティシア様っ？！」
リリアーナは驚きのあまりひっくり返りそうになりなった。
なんだって、さっきまであんなに警戒していたキャロラインと。しかも、海風祭だなんて1年で1、2を争うほど人が集まる場所に、自分から行くだなんて。正気の沙汰とは思えない。
一体なにを考えているのか。リリアーナは彼女を問いただそうとしたが、レティシアは衝撃のひと言を落としてすぐに踵を返して歩き出していた。屋敷へ向かう彼女を慌てて追いかける。
ひと言「行かないで」と言ってもらったら、リリアーナだって断ったのに。いえ、元々断るつもりでしたけど。もしかして祭りに行きたかったとか？舞踏会でさえ、今にも倒れそうだったのに？
レティシアに追いついたリリアーナは、彼女の横顔を伺った。
レティシアは変わらず眉間に皺を寄せ、空中を睨みつけている。やっぱりまだ、怒っているようだ。
「あの、レティシア様……無理、されていませんか？ 今からでも、お断りしてきましょうか？」
「……嫌よ」
リリアーナの提案に、レティシアは首をブンブンと横に振った。あれ、なんだか意地になってらっしゃいません……？
一抹の不安を抱えながらも、レティシアがそう言うのならリリアーナは従うのみだ。なぜなら彼女はレティシアの侍女だから。
リリアーナはそれ以上なにも言わず、レティシアに連れ立って部屋へと戻ったのだった。
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