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あれは私が出来の悪い受け持ちの生徒たちに、ややこしいところを説明しようとしているときだった。
ただでさえややこしいというのに、こいつらときたら、簡単な問題でもわざわざややこしくしてしまうような奴らである。
私は話が核心を逸れていかないように、慎重に授業を進めていた。
生徒というのは、この問題はきっと難しくてできないだろうというときには、その通りにできないし、このくらいはできるだろうというときには、その通りでなくできないものなのである。
生徒A「ねえ先生」
と、そこに割り込んでくる子供がいる。
先生「なんだい?今、大事なところを話しているんだ」
生徒A「うん、それはわかるよ」
先生「だったら黙って聞いてなさい」
生徒A「先生の子供の頃の話をしてよ」
先生「なんでそうなるんだ」
生徒A「大事なことを聞いてるって思ったら、先生の子供の頃が気になっちゃったんだよ」
先生「先生が子供の頃は、勉強して勉強して勉強した。だから勉強の話をする」
生徒B「勉強しかしなかったの?」
先生「先生が子供の頃は、今みたいにやることが色々とあった時代じゃない。子供は勉強をしていれば幸せだったんだ」
生徒C「ねえ先生、私ね、昨日ファミレス行ったんだ」
ほらきた。子供というのは、こちらの都合など御構いなしに唐突に自分の話を始めるものなのだ。
まったく彼らの話すことときたら、全てが自分のことに限られる。
かといって彼らが自分のことを十分に理解しているということではない。
世の中で自分ほど複雑なものはない。
この私でさえまだ自分がよくわからないのに、たかだか小学生風情に自分がわかってたまるか。
が、その前に。
先生「ファミレスなんて軽々しく言うのはやめなさい。ちゃんとファミリーレストランと言いなさい」
生徒C「なんで?」
先生「平日の夜に家族連れでファミリーレストランに行くような君の家族は、ファミリーレストランがなかったら生きていけないぐらいに困るはずだ。お世話になっているものに対して略語を使うのは失礼だ」
生徒C「コンビニも?」
先生「当然だ。コンビニエンスストアほど人類に貢献しているものはない。もはやコンビニエンスストアは太陽と同じレベルだ。コンビニなんて気安く呼ばずに、おコンビニエンスストア様と言うべきだ」
生徒C「先生はファミレス行かないの?」
先生「ファミリーレストランだ。先生はファミレスなんか行かない」
生徒C「略しちゃってるよ」
先生「先生はファミレスにお世話になってないからいいんだ。おコンビニエンスストア様にはお世話になっているけど」
生徒D「一人者だから?」
先生「違う!先生が子供の頃には、まだファミリーレストランなんてなかったからだよ」
生徒E「どうやってファミリーレストランはできたの?」
先生「君たちには難しすぎる話さ」
生徒E「大丈夫だよ。先生が話してくれるんだもん」
先生「それもそうだな」
というわけで、私はファミリーレストランの成り立ちについて話し始めた。
やれやれ、また脱線してしまったぞ。まったくこいつらときたら、授業を脱線させることだけは得意なんだから。
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