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昔々のことだった。当時はまだファミリーレストランなんてものは影も形もなかった。
それどころか、まだファミリーというものも、レストランというものもなかったんだ。
だから当然ファミリーレストランなんて存在していないわけだ。
ファミリーレストランが成立するためには、その前にファミリーとレストランが必要だからね。
当時の人たちはまだバラバラに暮らしていた。
家族というものはなかったんだ。
みんな好きなところで好きなように暮らしていた。
世界の中心には子どもを産むための病院があって、その頃のお母さんは子どもを産みたくなるとそこに行くんだ。
それで赤ちゃんを産んだら、プイとどこかにいなくなってしまっていた。
でもまた一年もしないうちに戻ってくるんだけどね、たいていは。
生徒E「ねえ先生」
先生「なんだね?」
生徒E「世界の中心って日本のこと?」
先生「いや、大昔の話だよ。日本にはまだ文明の影も形もない」
生徒E「大昔はどこだったの?」
先生「そのことは話の本筋にはまったく関係がない」
生徒E「でも気になるよ」
先生「古代に文明が栄えていたところさ。バグダードかどこかだよ」
生徒F「なんて病院?」
先生「赤ちゃん病院さ」
生徒F「そういうの産婦人科って言わないかな」
先生「いいから、話の腰を折るのはやめなさい」
生徒F「はーい」
当時の女の人は、だいたい15歳ぐらいで初めてそこにやってきて、最初の子どもを産んでいた。
それでまたどこかにいってしまう。定住という観念がないんだ。
だけど、また一年もすると戻ってくる。
他の街に赤ちゃん病院がないからだ。
それに昔のお母さんは多産だったしね。
ただ当時は新幹線も飛行機もない。
移動は全て徒歩だ。
だからバグダードを離れて半年歩いたら、そこでUターンして今度はバグダードへ向かって半年歩く。
そして赤ちゃん病院で赤ちゃんを産む。
また出発する。また半年歩いたら戻っていく。
そういうことを繰り返しながら歳をとっていくのが、当時の女の人の標準的な人生だったんだ。
ところで赤ちゃんだけど、誰もおっぱいをあげる人はいない。
お母さんはすぐに行ってしまう。
その代わりと言っちゃなんだけど、バグダードには牛がゴロゴロしていた。
だからお乳に困ることはなかったんだね。
誰も正確に数えた人はいないけど、当時の噂によると世界中の牛の半分はバグダードにいたということだ。
半分ということは、つまり牝牛はみんなバグダードにいたわけだ。
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