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 後日、家庭相談センターが仲立ちとなり、羽井の母娘が祖母の家に別居することを、ついに父親に認めさせた。  俺たちは交際を誰からも批判されないように、揃って真剣に勉強に没頭した。成果が実って無事に志望校に合格し、俺たちは今日の卒業式を迎えた。 「――父のことは、簡単にすぐ、解決するわけじゃないけど」  公園の隅、古ぼけた鳥居を眺めながら彼女はつぶやく。  あの後ここが天満宮だと気づいた俺たちは、勉学の障りから逃れられたのは天神様のご利益かもしれないと笑った。 「きっと社会人になって自立できたら、お母さんと一緒に、乗り越えられる気がするの」 「絶対大丈夫だよ」  希望をたたえた瞳で呟く彼女に、俺は力強く頷いて返す。  彼女は伸ばした髪を三つ編みにして、背中に長く垂らしていた。  卒業して下ろした姿を、俺は傍で見られない。  彼女は東京の大学に進学する。  事情を思えば遠方に行けるのは喜ばしい話だけど、遠距離になる辛さは変わりない。  セーラー服を脱いだ彼女は、遠くの女子大生になってしまう。  たまらなくなり、俺は彼女を抱きしめた。 「ねえ、新田くん」  腕の中で甘く囁かれる。  大きくて丸い眼差しを向け、彼女は小首を傾げて笑んで見せてくれた。 「四年後もまだ、あのキスを覚えててくれるかな」  はにかんで尋ねる、桜色に色づいた唇の色。  胸を、幸せな確信が吹き抜ける。  制服の季節を卒業しても、離れ離れになっても。  必ず二人をつなぐ糸が、制服の夏に確かに、紡がれている。  当たり前だよと答え、俺は彼女にキスをした。
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