赤、渡った

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
夕方に差し掛かろうとしていた時間でした。 私は仕事の帰りに信号を待っていたのですが、車が来ていないのを良いことに赤信号を渡ったのです。誰もいないはずだったのに後ろから「赤、渡った」と声がしたのです。 後ろを振り返ると黄色い帽子を被った小学校低学年くらいの子どもが私を指さして、「赤、渡った」と言ったのです。 私は気味が悪くなってその場から逃げるように歩いたのですが、夕焼けに照らされていた子どもが頭から離れません。 きっと「赤信号を渡るのはやめましょう」を律儀に守っている子どもだとこのときは思いました。 それからしばらくして、車がたくさん走っている横断歩道の赤信号を待っているときのこと。 「ほら、どうした、赤だぞ。渡れよ」 と子どもの声が聴こえたのです。 声が聴こえた方を見るとあのときと同じ、黄色い帽子を被った子どもがいたのです。 「赤を渡るわけないだろ」 私は言い返していた。 子どもはギロリと私を睨むともう一度言うのです。 「赤だぞ。渡れよ」 私は聴こえないふりをした。 しかし、頭の中に響いてくるのです。 子どもの声が。 「危ない!」  誰かが私の手を引っ張りました。  私は尻もちをついて自分が車が行き交う横断歩道を渡ろうとしていたことに気が付いたのです。  恐ろしくなった私は手を引っ張って止めてくれた人にお礼を言いすぐさまその場から逃げました。  以来、私は車が来てなかろうが短い横断歩道だからと言った理由で赤信号を渡るのをやめました。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加