95人が本棚に入れています
本棚に追加
“志麻さんは堀さんの片腕だ”って。いろんな人が言ってくれるのが凄い嬉しかった。
でも、そんなこと堀さんが思ってるなんて全然思ってなくて。
ただただ、この人の邪魔をしたくないって、必死でやってきてただけで。
そんな、必死でやってきた時間が、報われた瞬間、だった。
「結婚とか、考えてるならちょっと、さすがに言えなかったけど。そーゆーのないなら。ちょっとだけ、苦労させるかもしんねーけど、俺、志麻ちゃんにだけは俺の傍にいて欲しいんだよね。てか、もっと言っちゃうと、志麻ちゃんいないと、多分、なんもできねーと思う」
「な………んだよ、もう……プロポーズかよ?」
ちょっと、照れくさくて、苦笑しながらそんなことしか言えない。
「プロポーズよか、真剣だよ。俺、こんな真剣に誰かと向き合ったこと、ねーし」
「うわー、怖い怖い! 堀さんが真剣とか、マジこえーって」
「っせーな! ふざけてんじゃねーよ」
「ふざけるしか、ねーじゃん。俺」
「いやもう。マジ、俺この話すんのに、どんだけ志麻ちゃんのこと考えたと思うよ?」
もう、笑うしかない。
最強のパートナーに、こんな嬉しいこと言われて、まともでいられるかっつーの。
「だからさ。ちょっと、マジな話。そんな長い時間はやれねーけど、ちょっとだけ、考えてよ」
「いや、いらないし」
即答する。
「え?」
「そんなん、考える時間とか、いらねーよ?」
俺も、一気にグラスの酒を飲み干した。
「俺いないとダメなんでしょ? そんなん、俺、選択肢なんかねーじゃん」
そう、断る、なんて選択肢は、存在しない。
何故なら、俺がそれを“選択肢”とは認めないからだ。
堀さんが黒だって言えば、どんな色だって黒で間違いなくて。
それだけ信じて、俺はこの人の横にくっついてたから。
それを完全な黒にするためなら、何だってやる。やってみせる。それこそが俺の仕事だと、俺は信じてる。
で、そーやって来た結果が、コレなんだろ?
この俺のやり方が、堀さんに必要なんだろ?
堀さんがこんな俺をこそ、必要としてくれるなら。
ならばそこに“否”なんて存在しないから。
「志麻ちゃん……ダイスキ」
俺の返事で緩んだ堀さんがまた、昔の持ちギャグをかましてくるから。
「…………今はそれ、いらん!」
二人して、笑う。も、この人コレ一本しかねーんだよな、ほんと。
結局。
その日はなんとなく、閉店まで二人で飲んだ。
ずっと喋ってたわけじゃない。
黙って、横にいて。で、時々思いついた、とりとめのない話をして。
そんな、ただただ一緒にいる時間が、ものすごく心地よくて。
店が閉まるっていう、朝三時。
じゃあ、って言って別れる時に、合わせた目だけ。
なんかこの先ずっと、忘れないんだろうって思えた。
最初のコメントを投稿しよう!