【4】as much as possible

3/3
前へ
/39ページ
次へ
 “志麻さんは堀さんの片腕だ”って。いろんな人が言ってくれるのが凄い嬉しかった。  でも、そんなこと堀さんが思ってるなんて全然思ってなくて。  ただただ、この人の邪魔をしたくないって、必死でやってきてただけで。  そんな、必死でやってきた時間が、報われた瞬間、だった。 「結婚とか、考えてるならちょっと、さすがに言えなかったけど。そーゆーのないなら。ちょっとだけ、苦労させるかもしんねーけど、俺、志麻ちゃんにだけは俺の傍にいて欲しいんだよね。てか、もっと言っちゃうと、志麻ちゃんいないと、多分、なんもできねーと思う」 「な………んだよ、もう……プロポーズかよ?」  ちょっと、照れくさくて、苦笑しながらそんなことしか言えない。 「プロポーズよか、真剣だよ。俺、こんな真剣に誰かと向き合ったこと、ねーし」 「うわー、怖い怖い! 堀さんが真剣とか、マジこえーって」 「っせーな! ふざけてんじゃねーよ」 「ふざけるしか、ねーじゃん。俺」 「いやもう。マジ、俺この話すんのに、どんだけ志麻ちゃんのこと考えたと思うよ?」  もう、笑うしかない。  最強のパートナーに、こんな嬉しいこと言われて、まともでいられるかっつーの。 「だからさ。ちょっと、マジな話。そんな長い時間はやれねーけど、ちょっとだけ、考えてよ」 「いや、いらないし」  即答する。 「え?」 「そんなん、考える時間とか、いらねーよ?」  俺も、一気にグラスの酒を飲み干した。 「俺いないとダメなんでしょ? そんなん、俺、選択肢なんかねーじゃん」  そう、断る、なんて選択肢は、存在しない。  何故なら、俺がそれを“選択肢”とは認めないからだ。  堀さんが黒だって言えば、どんな色だって黒で間違いなくて。  それだけ信じて、俺はこの人の横にくっついてたから。  それを完全な黒にするためなら、何だってやる。やってみせる。それこそが俺の仕事だと、俺は信じてる。  で、そーやって来た結果が、コレなんだろ?  この俺のやり方が、堀さんに必要なんだろ?  堀さんがこんな俺をこそ、必要としてくれるなら。  ならばそこに“否”なんて存在しないから。 「志麻ちゃん……ダイスキ」  俺の返事で緩んだ堀さんがまた、昔の持ちギャグをかましてくるから。 「…………今はそれ、いらん!」  二人して、笑う。も、この人コレ一本しかねーんだよな、ほんと。  結局。  その日はなんとなく、閉店まで二人で飲んだ。  ずっと喋ってたわけじゃない。  黙って、横にいて。で、時々思いついた、とりとめのない話をして。  そんな、ただただ一緒にいる時間が、ものすごく心地よくて。  店が閉まるっていう、朝三時。  じゃあ、って言って別れる時に、合わせた目だけ。  なんかこの先ずっと、忘れないんだろうって思えた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加