【5】One Step

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「イヤなら、もうしない、けど?」  うわー、田村が意地悪だ。  だって、俺が気持ちよくなってんの、絶対わかってる。  そのくせ、ニヤニヤ笑いながら、絶対“イヤ”って言わせないように目で語ってるし。 「……ヤ……じゃ、ない」  もう恥ずかし過ぎるから、目を閉じて、顔を隠しながら、小さく呟く。  そしたら。  田村がぎゅっと抱きしめてくれた。 「良かった」  なんか、全部全部、田村の手の中、みたいな感じが。  嫌だけど……イヤじゃない。 「俺ね、志麻さん。全然いいんだ」  何が? って俺が微かに動いたことで、田村がふっと笑いながら、続ける。 「志麻さんがきもちくなって、俺の手でいっぱいイってくれて、そーゆーの、見れるだけでちょー幸せ」  俺なんて、田村のモノを見ることさえ、してないのに?  黙ってる俺の、そんな心情に気付いたのか。 「いんだってば。俺は、後で自分でどーとでもするし。何なら、今志麻さんがイった顔、想像するだけでイけるし」 「なんでそーゆー俺が恥ずかしくなることばっか、言うわけさ?」 「だって、恥ずかしがってる志麻さん、超絶可愛いもん」 「……俺、可愛い、か?」  そんなこと、思ったことも言われたこともない。あ、まあ鹿倉はふざけてゆってたけど。 「可愛い。も、すんげー可愛い」  どっちかっつーと、怖いって言われる方が多いんだけど。 「また、やらせてよ」 「…………それは、その……」 「うん、シてってゆったらいつでもシたげる」  言わないとシないってことで。  もうほんとに、恥ずかしいという感覚がどっかイカれてしまうくらい、恥ずかしいから。 「無理。絶対言わない」 「えー? 言いたくなると、思うよ?」 「何でだよ!」 「だって、志麻さんそろそろ、キスでスイッチ入る感じになってきたから」 「え?」 「自覚、ない?」  ない、と、思う。けど。  実際。  田村のキスは、気持ちよくて。  キスした瞬間、スンってどっか、切り替わる感じが、ある。言われてみれば。 「だから。志麻さん、キスはOKでしょ? そしたら俺、いつでも志麻さんのスイッチ入れられるからね」 「……スイッチ、入ったら……俺が自分で、言わないとダメ……ってこと?」  え、ちょっと待って。  今俺、なんつった?  自分で言った、あまりにも恥ずかし過ぎる言葉に、固まってしまう。 「どーしよっか? シて欲しい? 欲しくない?」  おいこら! 調子乗ってんじゃねえ。  って。心ん中でめっちゃ、田村のことどついてんのに。  なんでか、俺は。  俺の口からは。 「シて欲しい」なんて、とんでもない答えが、つるっと飛び出してて。 「うん、いいよ。いつだって、シたげる。そのうち、もっときもちくさしたげるし」  え?  今、何つった?  目で問う。 「次、またもう一歩前進、できるかなーってタイミング見てからね」  わからん。  そんな、曖昧なこと言われても、俺には全然わからん! 「どーゆーこと?」 「教えてあげない。まだ。ね」 「……田村?」  珍しく、田村が鹿倉みたいなふざけたくふくふ笑いしてるから。  俺は眉を寄せて首を傾げるしかできなくて。 「俺だって、志麻さんに教えてあげられること、あるってこと」  なんか、田村が一人で盛り上がって俺のことひたすら抱きしめてんだけど。  だんだん冷静になってきて、わかんだけどさ。  このカッコ、どーよ? なんで俺だけ、下半身剥がされてんのさ? 「あの……さ。田村さん。盛り上がってるトコ、申し訳ないんだけど、俺、下、履きたい」 「いんじゃない? 俺、このまま志麻さん裸に剥いて眺めてたいけど」 「…………調子乗ってんじゃねーよ」  ちょっとずつ、自分を取り戻せたから。とりあえず、軽く睨んでやる。 「はいはい。じゃ、もうそのままでいいからお風呂、行ってきたら?」 「………ん」  このままだと本気で田村にマッパにされそうだったから、俺は素直に頷くとスウェットのズボンを持ってバスルームに逃げた。
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