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「俺、キス、したいです」
言われて、驚く。
実はまだ、そーゆーことはしたことがない。
いつだって、遠慮がちに触れることはあっても、手さえ握ったことなくて。
何なら、田村の友人である鹿倉の方が何度も俺に抱き付いてきているし、あいつはスキンシップの激しいヤツだからいつだって誰彼構わずベタベタとくっついてくるから。
「イヤだったら、待ちますけど」
ゆっくりと、微かにそこを撫でながら、田村が言う。
その目が。
こんなにも、自分を欲しがっている顔なんて、初めて見た。
それが、なんだか嬉しいと、思って。
薄く、唇を開くと。
目を、閉じていた。
触れていた指が離れる。そして、顔の近付く気配がして。
重なった瞬間、目を開けていた。
「……いや、ですか?」
すぐに離れて、少し悲し気な表情をするから。
「い……やじゃ、ねー……よ」
微かに首を横に振る。
嫌じゃない。
全然、そんな否定的な感覚なんて、なくて。
ただ、ただびっくりしてるだけで。
だって、田村、かなりのイケメンだぜ?
綺麗な顔、近付いてくるとか、びっくりするじゃん、普通。
「じゃ、目、瞑って下さい」
「あ……うん」
頷く。けど、目が、閉じない。
「だから! そんなくるんくるんの目でじっと見られたら、近づけねーじゃん」
田村が、ふっと笑うと「しょーがないな」と呟いて、俺の顎に指をかける。
俺の目を閉じさせるのは諦めたらしく、お互い目を開けたまま、唇を合わせた。
田村の目が俺の唇を見つめていたから、半分閉じられてて。それがひどく色っぽくて。
あー、なんか、すごい、ドキドキするなー、なんて思っていたら。
唇の間を割って、舌が入ってきた。
お互いビールの味、な舌が、絡む。
くちゅくちゅって、音がなんか、ちょっとえっちな感じがして動悸が激しくなる。
田村の舌の動きは、でもすごく優しくて。
口の中、擽るみたいにあちこちを動き回る。
「…………っふ……んん」
自分の声だとは思えないような甘い声がして、ふと我に返った。
唇を離すと、透明な糸が引いて、自分でも顔が赤くなるのがわかった。
「…………ごめん。なんか、ちょっと強引だった」
田村が照れた表情で言うから、こっちも恥ずかしくなる。
「わかってる。わかってるから、これ以上のことはしないから。ちょっと、その……志麻さんの唇、めっちゃ可愛くて」
以前、鹿倉に「ぷるぷるで食べちゃいたい」なんて言われたけど、自分ではそんな意識ないから、指で触ってみる。
「ちょっと、落ち着かせてくるんで、志麻さんは飲んでて」
田村がそう言って、廊下へと出て行った。
びっくり、した。
ほんとに、ただそれだけ。
だって、なんか。
はっきり言っちゃうと、気持ち良かったから。
女の子とキス、なんてセックスまでの流れで簡単にしていたし、それが女の子の色気を煽ってたことはちゃんとわかっているし。
自分だって、どっちかというと優しい方だと自覚はあるからそれなりに気持ちよくさせてたハズ、だけど。
こんなにも、無意識に声が出てしまうような、そんな甘いキスなんて、初めてで。
だから、ほんとにこんなの、初めてだったから。
「……たむらー。戻って、来いよー」
一人でいるのがなんだか寂しくなって、廊下に向かって、声をかけた。
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