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【7】Sparkle
「あれ? 堀さんは?」
襖が開いて、律が入って来るなり、問う。
いつもの、ウチの企画部御用達な居酒屋で。
予約しておいた個室で待っていたのは俺一人。
「あー、なんか、用ができたって」
そう誤魔化したけど、嘘だ。あいつ、逃げやがった。
独立の話は当然、三人にきちんと堀さんから話すってことは前から決めていた。
が、それより先に。
まずはチーム拡充の為にこないだからサポートについてくれてる那須、戸波を引き入れるってことが決まった。だから、それについて、律の意見を聞きたいって言いだしたのは堀さんだったのに。
「あ、そーなんだ」
とりあえずビールだけ注文。
酒入んねーと、やってられん。
だいたい、堀さんが“俺が抜けたらリーダーは律になるから、律の意見が大事”なんつって。三人でちょっとその辺話、しとこうって今日ココ予約して律呼びだしたってのに。
いざってなると、あの人説明すんのとか超めんどくさがるから。
結局俺がしなきゃいけなくなるわけで。
わかってるよ、もちろん。あの人がそーゆー人で、だからこそ俺がいるってのも、わかってんだけどさ。
に、したって。こーゆー時くらいちゃんとしやがれ、って話。
これで三人に例の話するって時に今回みたく逃げやがったら、ただじゃおかねーっつの。
「おつ」
ビールが来て、適当につまみとか注文して。ジョッキをぶつける。
「おつー。志麻さんとサシ呑みって、久々ですね」
「あー。だよなー。最近仕事でも殆ど一緒に組むことねーし。メインの時だけだもんな」
「だからさ、何かあったんだろーなーって。でもその割に堀さんいねーし」
そりゃ、察するよな、ばかじゃねーんだから。
「うん。何かっつー程のことじゃねーんだけどさ」
ビールを、飲む。
ま、別にチーム増員なんて珍しいことじゃねーし、言い淀む程のおおごとなわけじゃねーし。
ただただ、その後に構えてることがあるから、なんか言いづらいってだけで。
「今やってるネタってさ、ちょい、デカくなりそーだろ?」
「ん。意外と」
「だからさ、堀さんがチーム自体に人増やそうって話してて」
「那須?」
さすが。
律の、こーゆートコが気持ちいい。
「俺は別に、全然いいと思うよ」
「那須と、あと戸波ね。あのコンビ、結構面白かったから。堀さんも気に入ったみたいで」
「わかる。かぐちゃんと田村っぽいんだけど、なんか違くて。二人で分かり合ってるっぽいのが、傍から見てて面白いっつーか」
「ね」
那須がきっちり系なのに対して戸波が掻き混ぜるタイプで。なのに、お互いそれ、わかってるんだかわかってないんだか、無意識でフォローし合えてるって感じ。
堀さん、そーゆー出来上がったニコイチコンビみたいの、好きなんだよね。
「何ー? それ、俺になんか確認すべきことー?」
「いやいや。ほら、那須に関しては俺んトコ研修に来てたから俺と田村は結構付き合いあるけど、律とか、あんまし接点なくねーかな、と思って」
「接点てほどの接点はないけど、別にいんじゃね? こないだも、結構俺の指示通りやすかったしフットワーク軽いからイイ感じだったよ?」
「ん。良かった、それ聞けて。堀さん、結構律に負荷かけてるって気にしてたからさ、実際のトコ律のフォローしてくれるヤツ、入れたいんだよ」
「俺のフォローねー。そんなん全然気にしなくていいのに」
「ほら、かぐちゃんだってここんとこ結構大口に絡むこと多いから、律のフォローばっかしてらんねっつーか」
「まあね。かぐちゃんも田村も、おっきくなったもんな」
「そそ」
なんか、親みたいな感じになっちまったけど。
でも、入社してすぐ企画部で研修入って、堀さんが面白いって目を付けた時からもう、俺たちで育てるのは決まってたし。
そしたら、どんどんいろんなこと吸収してって、今やもう、あいつら頭に置いても大丈夫なこと、会社が認めてるから。
やっぱ、うん。親鳥的目線にはなっちゃうよな。
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