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そうやって律と暫く昔の二人のばか話なんてして。
「ところで、最近どーよ?」
過去じゃなくて、近況も。と思って促す。
「最近? あー……ちょっと、料理にハマって来てるかな」
「田村に続いておまえもか。堀さんの影響、すげー受けてんなー」
「いやいや。そんな、本格的じゃねーし」
「てか、律のことだから材料重視じゃね?」
「そりゃまあ、できるだけ無農薬とか、旬の野菜とかは、取り入れてるつもりだけど?」
「出た! 律、前は水にこだわってたよなー?」
「水は今も気にしてるよ。だって人間の体ってその殆どが水でできてんだしさ」
律が常に常温のなんとかってゆー水を持ち歩いてるのは知ってたけど、やっぱ料理に関してもそーゆー健康志向なわけね。
「で、それは彼女に食べさせてんの?」
「いや、最近はかぐちゃん、かな」
「え?」
「ほら。あいつ、ほっそいじゃん? 栄養採らせないとなんか、ぶっ倒れんじゃねーかなーって思って」
「なんだよもー。田村とおんなじことゆってんな」
「うん。かぐちゃんが田村はもはやおかーさん、つってた」
「わかるわかる。あでも、最近あんまし田村んちにも来てないっぽかったぜ?」
「そーなん?」
「なんか、タイミング合わないって。ほら、あいつ彼女いんじゃん? そっちで忙しいんかなーと」
「ふーん」
なんか、ほんとかぐちゃんは愛されキャラだよなーと。
田村にしろ、律にしろ。まあ、当然堀さんもだけど。
庇護欲を掻き立てられるみたいで、とにかく甘やかさずにはいられなくなる。
俺だって、あんな可愛い顔で“志麻さん、好き”なんて言われたら、そりゃードキっとするしさ。
料理にハマったらそりゃ、食わせたくなるよな。
律が、いかにかぐちゃんの好き嫌いを克服させるか、ってのを懇々と話してて。
またそれが、可愛くてしょーがないってのが溢れてるから、こっちも幸せになる。
田村も、ほんとのトコ、それを結構気にしてたから。
俺がいるから田村んちに来てないみたいだし。ほら、かぐちゃんはああ見て凄い気を遣うコだから。
ま、彼女んちに行くのに忙しいってのもあるだろうけど。
でも、田村の代わりに律が栄養補給させてんなら、それはそれで安心かな。
「さて、と。そろそろ終電だし、帰るかね」
一通りくっちゃべって、いい感じに律の近況なんかも聞けたし。何より、那須戸波に関して、律には何も問題ないってことがわかったから。
「志麻さん」
「ん?」
「今度また、ゆっくり話す時間、貰っていいかな?」
律が、ちょっと含みのある言い方をして。
「そりゃ、全然」
「じゃ。また都合ついたらラインします」
「ほいほい。じゃ、また」
何だろう。律は律で、堀さんともまた違う方向に人間関係広いから、当然いろいろ悩んでることとかだって、あるんだろうな。と、思う。
それ、俺が話を聞くことでラクになれんだったら、ま、そんなことくらいしかできねーけど、それくらいお安い御用ってヤツだ。
店からは徒歩で帰る律に手を振って、俺は駅へと向かった。
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