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泊まる、と言っても部屋は別、だ。
田村は一人で寝室に行く。
一番最初に誘われた時、そのまま一緒のベッドに寝ればいいと思っていた。
けど。
好きって言われて。
そりゃ、確かに俺だって田村のことは嫌いじゃないし。全然好きだけど。
なんとなく、身の危険を感じてしまって。
で、それ以来ずっと、鹿倉の定位置だというラグの上に毛布を貰って寝ているわけだけど。
でもさ。冷静に考えると、女でもないのに“身の危険”ってなんだよって話。
だから。
「田村ー。俺、やっぱ一緒に寝てもいいかな?」
と一応、遠慮がちにゆってみた。
理由は床の硬さ。背中が痛くて、寝付けないから。
毛足が長いとは言え、ラグはラグ。
フローリングにそれが敷いてあるだけのとこで寝るのはやっぱり、寝心地がよろしくない。
かと言ってソファも二人掛けでそんなに大きくはないから、割と身長があるせいで足が伸ばせないのも結構キツイし。
何度も泊まるようになって、やっぱり田村のベッドに行きたいなーなんて思ってしまったから。
「……いい、っすよ。勿論」
田村がものすごく、難しい顔をして答える。
「あ。なんか、イヤ? だったら、なんか敷布団的なもの、貰えるなら全然ココでいいけど」
「全然イヤじゃないって。客用の布団、あるにはあるけどずっと放置してっからカビっぽいし」
「でもなんか、田村、困ってる感じ?」
表情が硬いから、やっぱりイヤだったりするのか、と訊いてみた。
「いや、ダイジョブ。俺、頑張りますから」
「? 何を?」
「ソノ気んなってない志麻さん、襲わないように頑張る」
「あー……ははは、そーゆー意味ね」
「うん。志麻さんのこと、大事にしたいから」
「ありがと。よくわかんねーけど、俺男だし、大丈夫でしょ?」
襲うとか、わかんねーけど。
だって、俺、男だし。自分が女だったり、田村が女の子だったりするなら、まあいろいろと問題ありそうだけど、所詮男同士なんだから気にしなくても、と思う。
「でも、手くらいは、繋いでもいい?」
「寂しがりだなー、田村は。うん、それくらい全然いいよ? なんなら抱っこしてやろーか?」
言うと田村が真っ赤に照れる。
うん、可愛いヤツめ。
そう言えば、時々めっちゃ甘えてくるもんな、こいつ。
元カノの話の時だって、ものすごく切なくなってたから頭を抱いてやったら、素直によしよしされて。
いろんなことあって、甘えん坊な田村なのにきっといろいろ一人で頑張ってんだろうと思うから、そういうとこ、めっちゃ可愛くて。
「極力、触んないように、頑張るから」
赤くなってるけど、結構マジな感じで言うから、俺は笑いながら。
「別に、触られても俺は困んないよ。ま、どしても寝付けなきゃ、蹴とばしてくれていいし。てか、逆に俺がおまえのこと蹴とばしてたらごめんだけど」と言ってやる。
すると、田村も力を抜いて微笑んで。
「あー、志麻さん朝いっつも床で寝てるよね、ラグから完全にはみ出て」
「そおなんだよー。なんだろうなー? マジ、寝相悪くて。家でもベッドの上でよく枕に足乗っけてるしなー」
暑いのか、寝ている間に毛布なんて丸めて放り投げてあるし、大抵上下は逆になっている。
自分でも寝相の悪さは自覚しているから、実際田村のベッドがどれだけ広いかにもよるが、それでも田村を蹴り落とさない自信は、はっきり言って、ない。
「じゃあ、手を繋いで、ベッドから落ちないように引っ張っときます」
「おう。意識なくなるとどうなるかは責任持てねーけど、とりあえず田村のこと、蹴らないように俺も頑張るよ」
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