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「でね。もう、そろそろかなーと、思ってるわけなんですけど」
「そろそろって?」
「やだなー、結婚に決まってんじゃないですか」
おっと。
那須が照れながら話始めた表情でそれは汲んでやらないといけなかったな、とちょっと反省する。
「あー、結婚かー。いいねえ」
「いやいや、志麻さん。だからね、それをどーしよっかなーって、そこの相談してんですよ、俺は」
「プロポーズ、しようかどうか、って段階?」
「ですです。彼女、同い年なんだけど、短大出だから先に社会人になってんですよねー。で、周りの友達とか、結婚話が増えてるみたいで、それとなーく急かされてる感じがして」
「その年で? 早くね?」
「そうでもなくないですか?」
「だって、結婚の平均年齢ってここ数年でどんどん高齢化してるじゃん?」
「まーそうなんですけどねー。ただ、なんつーか、俺の周りとか彼女の周りが、やたらと結婚早くて」
那須の茶髪を見て、それとなく悟った。
ヤンチャしてるヤツって、結婚早いもんなー。
あ、でもヤンチャしてた割に、コイツは大卒? 彼女ちゃんも短大卒? じゃあ、どっちかってーとカタめなのか。
「てかさー。那須ちゃん、何でそれ、俺に相談? 俺、まだ独り身だよ?」
「えー。だって。相談しようにも、堀さん律さんは女の子って遊び相手にしか見てなさそうだし、かぐさんは絶対真面目に話なんかしてくんなさそうだし、田村さんはなんか、ちょっとアレだし」
アレってなんだよ、と。恋人をばかにされてちょっとイラついてみる。
まあ、それを顔に出すほどガキじゃねーけど。
しかも言わせてもらえば、そのアレな田村がそん中では唯一“結婚”話にかなり近付いてたんだけどな。
勿論、そんなことはこんなトコで軽々しく言いませんよ、ワタクシ。
「それに、なんか最近志麻さんイキイキしてるっつーか。あー、なんか彼女でもできたのかなーって雰囲気してたから」
「え?」
「違います? ま、これは俺の勘、なだけですけど」
まあ、あながち間違っちゃーいない。彼女、じゃないだけで。
「志麻さんが、一番結婚に近いのかなーと思ったんですよ」
「結婚、ねえ」
「だって、もう三十でしょ? 彼女いたら、そーゆー方向に話行きませんか?」
確かに、現状で例えば田村が女の子だったら、ひょっとするとそんなことも考えたかもしれない。
けど。実情、田村は男で、しかも俺は別に誰かと“結婚”なんてしたいとは微塵も思ってないわけで。
「結婚が総てじゃねーし、結婚が地獄なんてわけでもない。タイミングと、お互いの気持ちと、あとはそうだな、自分がどんだけ相手を思いやれるのかっての、ちゃんと考えたらあとの答えは自然に出てくると思うよ」
「…………志麻さん」
「なーんつって。未婚の俺が言うのもなんだけどな」
なんかカッコ付けたことをゆってしまった手前、くふくふっとちょっと照れ隠しな笑いで誤魔化す。
「かっけー!」
そうしたら横から戸波がやってきて、那須と二人でキラキラした目をして言った。
「おいおい戸波、何だよ急に現れて」
「いやいや、いやいや。聞いてましたよ、俺だって」
「あれ、いたっけ?」
「いました、いました。ま、一瞬だけ席外してましたけど。俺的には、志麻さんの彼女の話のがぜんっぜん気になるんスけど!」
くっそ。こいつ絶対おもしろがってやがんな、と戸波を軽く睨んだ。
「俺にそーゆー相手がいちゃ、おかしいかよ?」
「おかしくなんかないッス。自分、志麻さんのファンなんで、志麻さんがどんな美女連れてんのかめっちゃ気になるッス」
「おまえ黙れよ、戸波」
那須が諫める。が、俺は鼻で笑って。
「も、すっげー可愛いコだから。ぜーったい誰にも見せてやんねーし、俺がたーいせつに、たーいせつにしまっとくから。おまえらには百年経っても会わせねーよー」
くふくふ笑いながら言ってやる。
「あーもう。マジかー。志麻さんのことだから、マジ大事にしてそうなんだよなー」
那須が言って、戸波も頷く。
ま、実際のトコおまえらの目の前にいるんだけどな。俺の可愛い恋人は。
てか、件の可愛い恋人は、何故か律と半泣きで抱き合ってるんだけど? 何やってんだ、あいつら?
「じゃ、そろそろお開きにすっかね。堀さんに締めさせるよ」
あちこちで酔っ払いがグダグダとクダ巻いてる状態になっていたので、俺は堀さんに声をかけ、この場を締めて解散させた。
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