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田村が、俺に抱き付いてきた。
ベッドの中で。
いや、ほんと、無意識なんだろうけど。
田村のベッドはクイーンサイズというのか、やたらと広いヤツで、男二人で寝ても全然窮屈じゃなくて。
で、その広いベッドの上、田村の希望で手だけは繋いで寝るけど、とにかく俺から離れて寝ようとするから、何なんだろうなーとはいつも思ってる。
そんなに逃げなくてもいいじゃねーかと。
そしていつもは俺の方が先に眠ってしまうんだけど、たまたま今夜は目が冴えてしまって。
暫くとりとめのない話をしていた田村が寝息を立てているのに気付くと、なんだか余計に眠れなくなってしまったのだ。
それで、なんとなくスマホを起動して、その薄明かりで田村の顔を眺めていると。
繋いでいた手をぐっと引っ張られ、まるっきり女の子みたいにその腕の中に包み込まれてしまったから。
ちょっと驚いた。
いや、正直ちょっとどころじゃなく、かなり驚いてんだけど。
こいつ、抱き慣れてんなーって思う。マジで。
ほんと、それが当たり前みたく俺の頭を腕に乗せ、ぎゅ、とその中に頭を包み込んで肩なんてさわさわ優しく撫でてくるわけで。
ほおほお。なるほど、恋人同士ね。
確かに、それならこんな風に寝るのが、正解だよなー。とは思う。
実際俺だって、昔はこんなことやってた気、するし。
ただ、さー。こんなにスマートに、できてたかなー?
正に“包み込む”って表現が一番しっくりくる、というか。
ぎゅ、なんてされてんのに全然息苦しくなんかなくて。
ただただ、田村のちょっと高めの体温が伝わってきて、どんな真冬だって寒さを感じないんだろうな、とか。
この、寝息と心音の中で静かに深呼吸していたら、それだけでなんか、癒される感じがするし。
「こいつ、マジ、モテるんだろーなー」
小さく、呟いた。とゆーか、思わず声に出してしまってたみたいで。
「……………!」
ぱちん、と大きな目を開けて、田村が俺の顔を見た。物凄い、驚いてる感じ、だな。
「ごめん、起こした?」
何が起きているのか、わかってないな、多分。ま、寝ぼけてるだろーし。
「いいよ、抱き枕代わりにしてくれて。俺も、なんかやっと眠れそうだし」
言うと、実際欠伸なんて出てきて。
ふうっと息を吐くと、田村の腕に体重を預けた。
ま、ちょっとした女の子よりかは重いだろうけど、田村、結構鍛えてるだろうし、問題ねーだろ。
「えっと…………志麻、さん?」
「うん。女の子じゃなくて志麻さんです。ま、女の子みたくやらかくねーけど、そこはちょっと目を瞑ってくれ」
寝るだけだしな。
と、言ったような、言ってないような。
田村の体温がちょうどよかったのか、俺はそこで完全に眠りについていた。
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