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【3】Step and Go
俺が田村んちに行くようになって、その代わりに鹿倉があまり泊まりには来てないようで。
「かぐちゃん、俺いても気にせずに田村んち来ればいいのに」
さすがに、男の俺が田村の恋人だ、なんて鹿倉に言うわけにもいかず。田村だってそんなこと言ってやしないんだろうから、鹿倉が遠慮することなんてないのに。
「いや、来てる来てる。俺、田村んちで栄養採らないと、なんか死んじゃうらしいから」
くふくふ笑いながら、田村の横でかぐちゃんが言う。
今夜は俺が強引に鹿倉を誘って、久々に田村の家で三人揃ったのだ。
ま、俺だけ泊まるってのもおかしな感じだから、今夜は鹿倉と一緒に帰宅するつもりだけど。
「でも、泊まってないんじゃね?」
「んー、ま、タイミング的に、ね」
そう言えば鹿倉、彼女いるんだったな。やっぱそっち、行くよなー。
「あ。じゃあ今日は一緒にお泊まりする? 俺、志麻さんと一緒に寝たい」
鹿倉が言うと、何故か田村は無言のままキッチンへと逃げた。ん? 鹿倉の頭をちょっと小突いた?
「ソファで二人で寝るのは厳しくね?」
「うん。だから、田村のベッドで三人で寝たらよくない?」
「かぐ! おまえ、酔ってるだろ。ふざけたこと言ってないで、大人しく帰んなよ」
ペットボトルの水を持ってきた田村が、鹿倉の頭をそれで軽くたたいた。
「ってーなー。こんくらいで酔うかよ。何? 俺が志麻さんと寝たらなんかまずいわけ?」
何やらふざけたように笑っているから、鹿倉が田村に何か企んでるんだろうな、とは思う。
こいつらはいつだってそうだ。
基本的に天の邪鬼な鹿倉が、鼻の奥でくふくふとふざけた感じで嗤っていると、大抵田村が拗ねて不貞腐れてしまう。そんで鹿倉が、今度は可愛く笑ってコソコソと耳打ちしたら、少しだけ赤くなって田村の機嫌が直る。
そんな、いつもの光景を目の当たりにして、俺はただただ二人のじゃれあいが可愛くて酒が進むわけだけど。
「かぐちゃん、一緒に寝よっか?」
面白そうだったので鹿倉にノってやる。
俺がそう言うと、田村が更に赤くなった。
なんだ、コイツ? 俺がかぐちゃんと寝ると何かマズいことでもあんのか?
「わーい。んじゃ田村、おまえ一人でソファで寝ろよ。俺、志麻さんとおまえのベッドでイチャイチャすっから」
「させねーよ?」
間髪入れず、田村が俺に抱き付いた。
「志麻さんは、俺のだから」
おっとお。そゆこと、ゆっちゃうんだ?
珍しく、田村が鹿倉みたいな行動をとるから、鹿倉はふひゃふひゃと爆笑して。
「はいはい、わかりましたよ。志麻さん、泊まってやってよ。俺は帰るけど。田村一人じゃ寂しくて寝らんないってゆってるしね」
くふくふいつものように笑いながら言う。
あれ? 鹿倉は、俺たちのこと、知ってる?
「コイツ、めっちゃ甘ったれ坊主だからさ。今まで俺が可愛がってたけど俺もほら、何かと忙しいからそうそういつでも泊まってやれねーし」
鹿倉が、ふざけた態度なんかじゃなく、普通のトーンで言う。
これまで田村の傍にはずっと親友の鹿倉がいて、今田村が俺に懐いてる感じとはまた別の関係で一緒に過ごしてきたわけだから。
それを、俺に遠慮して離れてく必要なんてないし。
いっそ、はっきり言ってやろうかと。
俺は恋人だから田村の傍にいるし、鹿倉は鹿倉で田村と一緒にいればいいと。
俺がそう言おうと思った瞬間。
「志麻さん、会社でも田村の面倒見てるからめんどくさいかもしんねーけど、ま、それも上司の務めって奴で」
と、鹿倉が言った。
そうか。俺が田村の傍にいる立場を、“恋人”なんてちょっと人目を憚るようなものではなく、普通に“上司”としてという、隠れ蓑にしても差し支えない表現で表せるのなら。
「上司、ね。あんましそういう肩書は好きじゃないけど、田村のことを大事に想ってるよ、俺は俺で」
「ん」
鹿倉が、この上なく可愛い笑顔で小さく頷いた。
「だからさ、かぐちゃんだって親友として田村の傍にいてやんなよ。そんな、いつもいつも意地悪ばっかゆってないでさ」
田村のこと、きっと大好きなんだろうから。
二人がふざけてからかい合って、じゃれてる姿を見てるのが俺は好きだから。
「ありがと、志麻さん。大好きだよ」
ほんっとに、天使か? と思うくらい、可愛い微笑みを見せて鹿倉が言った。
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