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「あのさ、田村」
田村のベッドで一緒に眠る時、なんとなく、田村が俺を抱き枕にするのが習慣になってきたから。
俺は当たり前のように田村の腕の中に収まるわけだけど。
「ん?」
なんか、わかんねーけど、ほんとに幸せそうな顔で俺のことを見てくるから、ちょっとだけ照れる。
「そのー……かぐちゃんってさ。俺が、田村の……えっと、恋人? 的な?感じなのって、知ってる?」
結局、日付を超えるより前に鹿倉は田村の部屋を出たし、俺はなし崩し的にそのまま泊まることになってしまって。
だからと言って、はっきり「俺は田村と付き合ってる」とも言えないままで。
だから、確認。
「んー……いちお。俺、ずっとあいつに相談してたから。志麻さんが好きなんだけどって」
「あ、そおなん? なんだよー、だったら早く言えよなー、もう。俺、鹿倉が引くかなーとか思ってちゃんと言えなくって」
そおだよなー、そりゃ、当たり前だよなー。ずっと一緒にいるんだもんな。
そっかそっか。だから、かぐちゃんはわざと、ああやっていつもいつもふざけて俺のことスキだとか、付き合おうとか。そんなことゆってたわけだ。
なるほどねー。
「あいつ、鬼だから」
「鬼? どこがだよ。天使じゃん、かぐちゃん」
「いやいや、志麻さんかぐの見た目に騙されてるから。マジで」
そりゃ、確かにいつもいつも田村は鹿倉に遊ばれてるからそんな風に言っちゃうかもしれないけど、実際のトコ、まじ天使だよ。
ふわっふわな感じだし、田村のこと大事なんだなーっての、伝わってくるし。
「ほんと、悪魔だよ、かぐは。だから、あいつが志麻さんと寝るなんて、ヤだっつったの」
「なんだよ、田村。俺とかぐちゃんが一緒に寝たところで、なんも問題ないじゃん」
「問題ありまくりだってば。あいつ、絶対志麻さんに手、出すもん」
田村が不貞腐れて言うのがおかしくて俺はくふくふと笑ってしまう。
「手、出すってなんだよ。俺、男だぜ? かぐちゃんだって、あんな可愛いけど、男の子じゃん。何もしようがない」
笑いながら、田村の顔を見る。
と。
「志麻さん、俺だってめっちゃ我慢してんだよ? それ、わかってる?」
田村が珍しく真面目なトーンで言うから、笑うのをやめる。
腕の中、なんて場所だからドアップで見える田村の顔は、整っているからほんとに真面目な顔をするとちょっと怖い。
……てか、怒ってる?
「俺が我慢してんのに、かぐが先に志麻さんとえっちするなんて、俺は絶対やだから」
「いやいや、ちょっと待って。俺、男だからそんな、えっちとか、できなくね?」
俺がそう言うと。
田村がきょとん、とした顔をしてじっと見つめてきた。
どうやら怒ってるわけでは、ないみたいだ。
「志麻さん、マジでそれ、ゆってる?」
「え? 何が?」
言ってる意味がわかんなくて、首を傾げてしまう。
すると田村がため息を吐いた。そして。
「……志麻さん、さ。俺があれからキスも我慢してる、って知ってる?」
あ。
言われてみれば、確かにあのキス以来そんな雰囲気になることもなく。
ふざけて抱き付いてきたり、手を繋いでみたり、そんな接触はあるけれど。
「ハグは、平気だよね?」
「平気……とかってよくわかんねーけど。別に、おまえが抱き付いてくんのも、俺がこうやって抱き枕になってんのも、全然イヤじゃないよ?」
「うん。だから遠慮なく、それはさせて貰ってる」
「あ、そう? させて“やってる”、つもりはないけど。恋人同士ってんだから、まあ、それくらいはするもんかなーと、俺も思うし」
「でも、キスは?」
少し、色気のある目をして田村が訊くから。
ちょっとだけ恥ずかしくなって、「別に、イヤじゃ、なかったよ?」と答えたけれど。
ほんとは気持ち良かった、なんてことは、言えない。
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