【3】Step and Go

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「俺ね。志麻さんにキスした時。あんまりにもヤバ過ぎて、トイレで一人でヌいてたんだよね」  一人でヌく……って。  えっと……それってつまりは…………。 「ええええ!」 「そんなデカい声出さないでよ、こんな近くで」 「待って。ちょっと、俺、今カルチャーショック、受けてる」 「何だよ、それ?」 「田村は俺で、勃つ、ってこと?」 「勃つよ。勃つに決まってんだろ」  何なら触って確かめる? と小さい声で言われて、ふと思い当たる。というか、下半身に、何かが当たる。  いや、何かってそりゃ。アレに決まってんだけど。 「かぐはね、ふざけて言ってるだけかもしんないけど。少なくとも俺は、志麻さんとえっちしたいって、もうずっと前から思ってるから」 「あ……えっと……ちょっと、待って。その……俺、男だけど?」 「だから、何?」  田村の声が、マジで。  ちょっといつもより低いトーンだから、その真剣な声がやけに響く。 「あー、その……男同士で、えっち……って、できるもんなの?」 「はあ?」 「いや、マジな話。俺、女の子としかセックスしたことねーし、マジで男となんて、何をどうすんだ? って話で」  完全に混乱している。  俺は確かに田村が好きだけど、だからと言って田村とのハグやキスで勃ったことはないし。  それに、そもそも勃ったところで、そいつを一体どうするって言うんだ?  女の子みたいにハメる場所なんて………。  なんとなく、数年前に遡って当時の彼女とのセックスを思い浮かべ、男にもあるその場所ってのに思い当たる。 「えっと……今、俺すげー怖いこと、思いついたんだけど。……てか、それが正解なのかどうか。あー……田村は、それ、答え、知ってたり、するのか?」 「志麻さん、まともな日本語喋れてないけど」 「いや、そりゃ、そうだ。うん、まあそれは、わかってるんだけど。じゃなくて」 「多分、それが正解」  しどろもどろ、なんて殆ど田村に見せたことのない自分を見せている今。  なのに、いつもふやけた答えばっかり返す田村がはっきりと、断言してくれて。  俺は、硬直した。 「……心配、しなくていいよ。だから、我慢してるってゆってんじゃん。俺、いつもゆってる。志麻さんがイヤがること、絶対しないって」 「……………」  そう、いつも田村は優しい声で、そう言ってくれる。  その意味が、多分今、はっきりと、わかった。 「だから、固まんないでよ。少しずつ、志麻さんのこと、口説いてくから。志麻さんが、俺に勃ってくれるようになるまで、頑張るし」  俺が、田村に、勃つ? 「まあ、ちょっと。キス、くらいはさせて貰えると嬉しいけど。志麻さんがイヤじゃないなら」  あ、はい。キスは、嫌じゃないです。  てかむしろ、気持ち良かったから、そこは積極的に、ダイジョブ、です。  内心そんなことを言って、でも言葉に出せなくて。  仕方ないから、軽く、触れるだけのキスを、してみた。 「…………俺のこと、試してる?」 「え? なんで?」 「…………別に……俺が、頑張るだけなんだけどさ」 「えっと……田村、怒って、る?」 「怒ってないよ」 「いや、でもなんか、怖いけど?」 「怒ってないけど、耐えてんの」 「耐える? って何に?」 「志麻さんの可愛さに、俺の理性が壊れないように」 「いやいや、俺は別に可愛くはねーよ?」 「うん、ちょっと今、可愛さ余って憎さ百倍状態だけど」 「ええ?」 「ほんと、どうしてくれよう、おれのコイツ」  あ……うん。わかる。俺だって男だから、下半身に当たるコレが、こうなってる時にどんだけ理性保つのが大変かは、重々、わかってる。  まあ、こうやって田村のソレが俺に当たってる、ってことに嫌悪感がない自分がいるのは不思議なんだけど。 「えっと……俺に、できることがあれば」 「志麻さんにしかできないことばっかだけど、志麻さんにさせるわけにはいかないことしかないから」 「何の言葉遊びだよ?」 「うう……頑張れ、俺の理性!」 「田村?」 「あーもう! ちょい、トイレ、行ってくる」 「…………行ってらっしゃい……」
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