95人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺ね。志麻さんにキスした時。あんまりにもヤバ過ぎて、トイレで一人でヌいてたんだよね」
一人でヌく……って。
えっと……それってつまりは…………。
「ええええ!」
「そんなデカい声出さないでよ、こんな近くで」
「待って。ちょっと、俺、今カルチャーショック、受けてる」
「何だよ、それ?」
「田村は俺で、勃つ、ってこと?」
「勃つよ。勃つに決まってんだろ」
何なら触って確かめる? と小さい声で言われて、ふと思い当たる。というか、下半身に、何かが当たる。
いや、何かってそりゃ。アレに決まってんだけど。
「かぐはね、ふざけて言ってるだけかもしんないけど。少なくとも俺は、志麻さんとえっちしたいって、もうずっと前から思ってるから」
「あ……えっと……ちょっと、待って。その……俺、男だけど?」
「だから、何?」
田村の声が、マジで。
ちょっといつもより低いトーンだから、その真剣な声がやけに響く。
「あー、その……男同士で、えっち……って、できるもんなの?」
「はあ?」
「いや、マジな話。俺、女の子としかセックスしたことねーし、マジで男となんて、何をどうすんだ? って話で」
完全に混乱している。
俺は確かに田村が好きだけど、だからと言って田村とのハグやキスで勃ったことはないし。
それに、そもそも勃ったところで、そいつを一体どうするって言うんだ?
女の子みたいにハメる場所なんて………。
なんとなく、数年前に遡って当時の彼女とのセックスを思い浮かべ、男にもあるその場所ってのに思い当たる。
「えっと……今、俺すげー怖いこと、思いついたんだけど。……てか、それが正解なのかどうか。あー……田村は、それ、答え、知ってたり、するのか?」
「志麻さん、まともな日本語喋れてないけど」
「いや、そりゃ、そうだ。うん、まあそれは、わかってるんだけど。じゃなくて」
「多分、それが正解」
しどろもどろ、なんて殆ど田村に見せたことのない自分を見せている今。
なのに、いつもふやけた答えばっかり返す田村がはっきりと、断言してくれて。
俺は、硬直した。
「……心配、しなくていいよ。だから、我慢してるってゆってんじゃん。俺、いつもゆってる。志麻さんがイヤがること、絶対しないって」
「……………」
そう、いつも田村は優しい声で、そう言ってくれる。
その意味が、多分今、はっきりと、わかった。
「だから、固まんないでよ。少しずつ、志麻さんのこと、口説いてくから。志麻さんが、俺に勃ってくれるようになるまで、頑張るし」
俺が、田村に、勃つ?
「まあ、ちょっと。キス、くらいはさせて貰えると嬉しいけど。志麻さんがイヤじゃないなら」
あ、はい。キスは、嫌じゃないです。
てかむしろ、気持ち良かったから、そこは積極的に、ダイジョブ、です。
内心そんなことを言って、でも言葉に出せなくて。
仕方ないから、軽く、触れるだけのキスを、してみた。
「…………俺のこと、試してる?」
「え? なんで?」
「…………別に……俺が、頑張るだけなんだけどさ」
「えっと……田村、怒って、る?」
「怒ってないよ」
「いや、でもなんか、怖いけど?」
「怒ってないけど、耐えてんの」
「耐える? って何に?」
「志麻さんの可愛さに、俺の理性が壊れないように」
「いやいや、俺は別に可愛くはねーよ?」
「うん、ちょっと今、可愛さ余って憎さ百倍状態だけど」
「ええ?」
「ほんと、どうしてくれよう、おれのコイツ」
あ……うん。わかる。俺だって男だから、下半身に当たるコレが、こうなってる時にどんだけ理性保つのが大変かは、重々、わかってる。
まあ、こうやって田村のソレが俺に当たってる、ってことに嫌悪感がない自分がいるのは不思議なんだけど。
「えっと……俺に、できることがあれば」
「志麻さんにしかできないことばっかだけど、志麻さんにさせるわけにはいかないことしかないから」
「何の言葉遊びだよ?」
「うう……頑張れ、俺の理性!」
「田村?」
「あーもう! ちょい、トイレ、行ってくる」
「…………行ってらっしゃい……」
最初のコメントを投稿しよう!