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【1】Life goes on
俺の名前は志麻空芽。三十歳独身だ。
仕事はできる。
プライベートだって充実している。
なんたって先日、可愛い恋人ができたからな。
恋人と言っても、男だけど。
生まれて初めての経験に、自分でもかなり戸惑っている。
自慢じゃないが、学生時代は女の子にモテた。モテまくった。
中高一貫の進学校だったが、彼女が途切れたことなんかない。
まさに入れ食い状態だ。
ここ数年、仕事がおもしろくなったせいで女関係は控えていたが、その気になればいつだって調達できるだけの技は持っている……つもりだ。多分。
ただ。
仕事で可愛がっている後輩が、とにかくやたらと懐いてくるなー、と思っていたらなんと、こんな俺を好きだと言ってきた。
驚いた。
当たり前だ。さすがの俺も、男に告白なんかされたのは、初めてだから。
いや、もっと驚いたのは、それが全然嫌じゃなかった自分に、ってこと。
俺よりちょっとだけ背が高くて、笑う時に顔をくしゃくしゃにして、これが百パーの笑顔だろうってヤツをいつだって自然に見せてくれる。
若くて肌なんてぴちぴちで——ああ、これはセクハラ発言になるのか? いや、でもほんとにそうなんだから、いいだろ。
そんな、今時イケメン男子って奴を絵に描いたような男が、これまたばかみたいにピュアで、思ってること全部顔に出して、周囲を和ませてくれるわけで。
そんなヤツが珍しく真剣な顔をして、俺のことを好きだって。冗談なんかじゃなく、本気だってわかる顔で言ってくれた。
それが。
思っていた以上に嬉しかった俺は、だからこいつを“恋人”だと認識している。
ほんとのところ、男同士で恋人ってなんだ? って、俺としてはイマイチよくわかんねーんだけど。
とりあえず、一緒にメシ食って一緒に休みの日を過ごしたり。それに、仕事も一緒に組んでやってることが多いから、ほぼほぼ四六時中一緒にいて。
そんな、ふっつーに一緒にいる、だけで。
ただ、時々目が合うと、やたらと嬉しそうな笑顔を見せてくれたり、横に座ってたらくっついてきたり、とか。
そーゆーのは、付き合う前まではなかったからちょっと新鮮で。
中高生の付き合いたてのカップル、的な感じだろうか。
まさか、こんなトシでそんな可愛いことをやることになるとは思ってもみなかっただけに、正直楽しい。
何より嬉しいのは、とにかく可愛いその恋人の作るメシが最高ってことで。
今日だって、俺が泊まるって言ったら俺の好きなアボカドを使った何やら旨そうなつまみとか、前にすごい旨かった軟骨の唐揚げだとか。そんな、俺の好みを熟知して胃袋を掴んでくれるメニューが揃ってて。
「今日は、最後にシメのメニューもあるから、あんましつまみばっかでお腹いっぱいにしないでね」
目の前の可愛い恋人、田村隆司がそう言って笑った。
「シメ?」
「ん。焼きラーメン、っての。こないだテレビでやってた。志麻さん好きそうだと思ったから」
「いいねえ」
ビールの缶をぶつけて、とりあえず飲む。
二人でいて、会話の内容は仕事のことが大半になってしまうけど、それでも田村がたまにオオボケをかましてくれるから、それすらも楽しい。
と、会話の流れが止まり、ふと田村が俺の目を見つめているのに気付いた。
少し目を細めてるその目が、アルコールのせいなのか色気づいていて。
「志麻さん……」
長く、骨張った指が伸びてくる。軽く握った形の、人差し指の第二関節で、俺の唇に触れた。
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