【6】

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 ああ、それでか。と稔は納得した。  実際ここまで残業が続くと苛つく気持ちはわかるが、夏の繁忙期にはここまで愚痴をこぼさなかった梶谷である。  確かクリスマス直前辺りに彼女ができたと喜んでいたっけ、と思い至る。 「稔さん、疑われないんスか?」 「俺かー? 疑ってくれる彼女、いないからねえ」  既に苛々を超え、ただただ疲労している稔はのんびりと答える。 「えっ? マジっスか? 俺、稔さんがフリーなんて知らなかったっスよ」 「んー、あんまり言ってないからねえ。あ、最後のカラアゲ、喰う?」 「いただきます。つーか、何でです? モテるでしょ、稔さん?」  もそもそとただ温かいだけのコンビニ弁当を咀嚼しながら稔は笑った。 「ははは。モテませんねえ。二年前に恋人らしき人はいたんだけどね。完全にフられちゃってからはずっとフリーですよ、俺は」  そう。武人にフられてからずっと。  こうして笑いながら言えるのは、今その人がまた自分に対して笑いかけてくれるから。  それに、今現在このたて込んだ仕事をとりあえずこなして行けるのは、三月の終わりに武人とちょっとした旅行を計画できたこと。  勿論口約束だけだし、武人の気紛れは昔からわかっている稔であるから、確実に行けると決まっているわけではない。  ただ、いざとなった時に自分の仕事が終わってないから行けなくなった、なんて余りにも虚しい結果にはなりたくないから、こうしてハードな仕事もなんとかこなせているわけで。 「さて、と。飯食ったらまた仕事にかかりましょうかね」  お茶を飲み干した稔が言うと、明らかに嫌そうな顔で梶谷が頷いた。
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