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2022
ねぇ、うちのこと覚えとる?
彼女の黒い瞳が、そう聞いたように感じた。
懐かしいえくぼ。10年前と変わらない、優しい声。
俺は蝉の声が響く神社の境内で、彼女に笑いかけた。
もちろんだよ、あたり前じゃないか。ずっと待っていたんだ。米花、君が戻ってくるのを。
そう思いながら、言葉を紡ぐ。
「すみません、覚えてなくて」
鎮守の森から真夏の湿った風がザアッと吹いて、境内の緑を揺らす。
「そうですか」
彼女は片手で長い髪を押さえ、嬉しそうに微笑んだ。
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