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正直言って、わからなかった。
でも…、とさっきの洋子の話を思い出す。
『浮気ならまだ許せる、仕返しだってできる』
そうかもしれない。
それにまだ小さい翔太を抱えて離婚したら、綾菜が苦労するのは目に見えてる。
私がした思いを綾菜にはさせたくない。
「お母さんにもわからなかった。でも、初めてなんでしょ?こんなこと」
「浮気?」
「そう。相手の女にお金を貢いでる様子はないの?」
「家計は私が全部預かってて、アイツの小遣いは昼ごはん込みで月3万しか渡してないから、それはないと思うよ」
お茶でも淹れるね、と綾菜が立ち上がった。
「おかぁちゃん、おなかすいた」
翔太が綾菜の足にしがみついていった。
やっぱり、母親は大事なんだよね。
こんな小さい子を預けて働きに出るとか、そんなことをしたら可哀想だと思った。
「はいはい、ごはんにしようね、翔太の好きなカレーだよ」
「わぁー、ばぁば、たべようよ」
「うん、食べようね。綾菜、この話はこの子が寝てからにしよう」
「ん、そうだね」
翔太も食べられる辛さのカレーは、優しい味で心にも染み込んだ。
私は綾菜に、こんなふうに優しい料理を作ってあげたことあったかな?
我が娘ながら、きちんと母親してるなぁと感心する。
私は母親としては失格だと思う。
きちんと育てたという記憶がない。
愛情を注いだという記憶もない。
どちらかというと綾菜のことを、疎ましく思っていた。
望んでできた子どもじゃなかったからか、それとも私が自分の親に愛された記憶がなかったからか。
それでも、この子は特に悪い道にそれることもなく、普通に結婚して立派に妻と母親をこなしていると思う。
だからこそ、幸せになって欲しいと願っている。
「やっぱりさ、家に帰りなさい。健二君を信じてみたら?離婚なんて簡単にするもんじゃないよ、翔太のためにもさ」
スヤスヤと寝息を立てている翔太の頭を撫でながら話す。
「離婚経験者に言われたか…。でも、もしもね、もしもまたこんなことがあったら?」
「その時はね、あんたも浮気して仕返しすればいいわ、もっといい男見つけてね」
「はぁ?そんなこと言うの?信じらんないんだけど」
「冗談だよ、でもさ、それくらいの気持ちでいれば気が楽になると思うよ。今回は初犯だから執行猶予付きってことだね」
「あはは、執行猶予ね、わかった。そう言っとくわ。そっか、いざとなったら仕返しか。悪くないかもね」
じゃ、寝るねおやすみと、さっさと寝てしまった。
これはこれでいいとして。
私は?
私はこれからどうするべき?
考えていたら寝れなくなる…
と思っていたのによく寝れた。
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