封書

1/1
前へ
/112ページ
次へ

封書

「おはよう。昨日は何か用事だった?出かけちゃってごめんね。それから税務署からなんか手紙が来てるけど?」 朝から旦那にLINEする。 ぴこん🎶 『わかった』 はっ? それだけ? 私とはLINEのやり取りも嫌なの? もともとそんなに話す人でもなかったけど、こんなにぶっきらぼうだったっけ? もう! 何も指示がないなら私は知らないからね、ということで封書をレターラックに放り込んだ。 さてと、仕事に行かなくちゃ。 着替えてコーヒーを飲んで少しだけメイクして、忘れ物なし、と。 「おはようございます」 いつも早い(たかし)君を見習って、私も早く出勤するクセがついた。 「あ、おはよう」 「昨日はありがとう。楽しかった!でも、ずっと運転してもらって疲れなかった?」 「あれくらい平気だよ、運転は好きだから全然苦にならないし。なんならもっと遠くでも平気だから」 「そうなの?じゃあさ、もっと楽しいこと見つけたらまた一緒に出かけてくれる?」 「よろこんで!」 「やった!」 また次があると思うだけで、気持ちが上がる。 「おはようございます♪お二人とも早いですね」 受付の桜井(さくらい)芹奈(せりな)さんがやってきた。 「なんか、私もつられて早くなっちゃって。年寄りになったのかしら?」 「そんな、年寄りだなんて!小平(こだいら)さんは、うちのお母さんより若いですよ」 「お母さんて、いくつ?」 「45です、小平(こだいら)さんと同じだけど、見た目が全然!あ、そんなことより…」 なんだか褒めてもらった気がしないけど、この子なりの褒め言葉なんだろうな。 「本日は、車検の予約が2件入ってますので、よろしくお願いしますね」 「「了解!」」 「じゃ、9時になったらおみえになると思うので…」 ぺこりと頭を下げて、店舗へ戻っていった。 「なんか、今のって…」 「ん?」 「未希(みき)さんのこと、若いって言いたかったんだろうけど中途半端で、もやっとしたね」 肩をすくめながら(たかし)君が言う。 「やっぱり?私もなんか、どう返事していいのか悩んだわ。ま、でも、年齢なんてどうでもいいんだけどね。こうやって新しい仕事にもつけたし」 「そうだね、俺もあんまり未希(みき)さんとは、年齢差を感じないから、関係ないね」 なんですと! こっちの方がずっとうれしいセリフだ。 思わずニヤけてしまった。 「おはようございます」 車検予約の1台目、赤い軽自動車のお客さんがやってきた。 「お願いしま…あれ?まさか!小平(こだいら)さん?」 「あー、久しぶり!」 「ここで働いてたの?」 久しぶりに聞いたその声の主はチーフ《ようこ》だった。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

755人が本棚に入れています
本棚に追加