不満と焦り

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晩ご飯の時間。 テレビでは、ドッキリの番組をやっている。 「あはは!ちょっ、これ面白い!わかっててやってるんじゃないの?!」 出だしたばかりの芸人が、ありふれたドッキリを仕掛けられて大げさなくらいのリアクションをしている。 向かい合った旦那は黙々と箸を口に運んでいる。  「ね、面白いよね?このコンビ。売れそうじゃない?」 「あ?あー、わからんな」 画面を見ようともしないで返事をする。 もともとそんなにしゃべる人でもなかったし、大声で笑う人でもなかった。 それでも、もう少し私の言うことに耳を傾けてくれてた気がするんだけど。 今は、話しかけたらやっと答えてくれるくらいだ。 ひとしきり笑ってご飯を食べ終えた私を見て、待っていたかのように 「お茶、ちょうだい」 と旦那。 それくらい自分でやれば?と言おうとしたけど、美味しいお茶を飲みたくなったから黙って淹れることにした。 急須に茶葉を入れて、適温のお湯を注ぐ。 ちょっとだけ奮発して買った茶葉からは、とてもいい匂いがする。 「はぁー、いいお茶の匂い、さすが高級なだけあるわ」 そう言いながら旦那の前に、湯呑みを出した。 旦那は黙って湯呑みを持つと、立ち上がり自分の部屋へと向かう。 「えー、ありがとうもなし?」 なんだかなぁ。 嫁だったらお茶くらい淹れて当たり前なのかもしれないけどさ、ありがとうくらい言ってくれてもいいのに。 「あー、美味しい!自分で淹れると特に美味しいわ」 でも。 半年もいなくなると思うと、やっぱりちょっと寂しいかな。 うん、さっきのこともあるし、仲直りしとこっと。 片付けて、さっさとお風呂に入る。 こんな時は、肌を重ねて仲直りっと。 下着…はいらないか。 髪を乾かし、素肌にパジャマで旦那の部屋へと向かう。 「タロウ、あんたちょっと邪魔しないでよね!」 和室の前に横たわっていたタロウをよけて、旦那の部屋の襖を開けた。 灯りの下で、旦那はスーツケースを広げて荷物をまとめていた。 畳の上に置かれたベッドの上には、いろんなものが散らばっていた。 そっか、出張の準備か。 こりゃますます、別れを惜しんで濃厚なやつをしとかないと浮気するかも?なんて考えた。 「あ、あのさ…」 こういう場合、なんて言えばいいんだろ? 抱いて?しよう? いつもどうやって誘ってたっけ。 そういえば、しばらく旦那とセックスしてないことを思い出した。 私が話しかけたのに、聞こえてないのか作業服や下着やスーツやスウェットを畳んでは、スーツケースにしまっていく。 「ねぇってば!」 「は?何?」 荷物をまとめる手は、止めようとしない。 「明日から行くんでしょ?」 「だから!今忙しい、見てわかるだろ?」
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