娘の事情

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「おはよう!お母さん、いる?」 「ばぁば、しょうちゃんきたよ」 玄関からパタパタと走ってくる可愛い男の子。 自分の孫ながら、なんでこんなに可愛いんだろうと思ってしまう。 完璧にばばバカだ。 「いらっしゃーい、しょうちゃん、今日も元気いっぱいだね!」 飛びついてくる翔太(しょうた)を抱き上げた。 「お?また重くなったかな?」 「そうなの、最近よく食べるからね」 「食べるのはいいことだよ、あ、しょうちゃんにホットケーキ焼いてあるよ、食べる?」 「うん、クリームいっぱいね」 「はいはい、用意してあるから、ばぁばがかけてあげるね」 子供用のフォークで、美味しそうにホットケーキを食べる孫の顔は、見ているだけで幸せになる。 何を作っても無表情で感想も感謝も言わない旦那とは、えらい違いだ。 「おいし!」 「そう、それはよかった。ばぁばも作った甲斐があるよ」 「ねぇ、コーヒー淹れてもいい?」 キッチンから綾菜(あやな)が言う。 「好きなようにして、あ、お母さんにも淹れて」 娘の淹れるコーヒーを待って、娘の話を聞くことにした。 私の話はまた今度だ。 「はい、どうぞ」 「ありがとう。で、話ってなに?」 「あの…さ」 「何?言いにくいこと?」 少し言葉に詰まった綾菜(あやな)。 「アイツ、うちの旦那、浮気してたの!」 「え?」 「最近ね、夜、誘ってこないから疲れてるのかなあと思ってたんだけど。このまえ、こっちから誘ったの、アイツは半分眠りこけてたんだけど。そしたらさ、アイツなんて言ったと思う?」 もうお前とはしたくないとか?なんて昨夜の旦那のセリフを思い出したけど。 「なんて?」 「まだしたいの?マリちゃん、だって!わかる?私は綾菜(あやな)、マリって誰?って叩き起こしてぶん殴ってやった」 「いやいや、寝言だったんじゃないの?」 「寝言で?マリ?おかしいでしょ?」 「それで健二(けんじ)くんは、なんだって?」 「とぼけてたよ、寝言だって言ってた。でもさ、そんなの信じられないじゃん?次の日にアイツが寝てしまうのを待って、アイツのスマホを覗いてやったの」 「ロックしてなかったの?」 「そんなの、指紋で開いたよ」 「甘いな、健二(けんじ)くんは」 「はぁ?そこ?違うでしょ!とにかくあったわけよ、LINEが。ハートいっぱいで。また会いたいとか、大好き!とか」 「あーぁ、やらかしてるね」 「でね、何が一番頭にきたかって、アイツの返事、あの一言!」 「なんて書いてあったの?」 「奥さんは大丈夫?ってマリからのコメントにね、嫁のことは心配いらない、アイツは俺に惚れてるから疑ったりしない、だって。バカにされたもんだわ!!」 コーヒーカップをダン!とテーブルに置いた。 「ママ、怒ってるの?」 「あ、ごめんごめん、ママは怒ってないよちょっと手が滑っただけだよ、ね?ママ」 怖がった翔太(しょうた)をなだめるのもばぁばの役目。 …にしても。
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