77人が本棚に入れています
本棚に追加
え? 何、急に話飛んだ!
「事情は聞いたけど、既に決まったことだからって有無を言わさず離婚しようだなんて、仁くん随分強引じゃない?」
「や、だってそれは――あ、事情聞いたって何処まで?」
「全部。桜木くんだっけ?」
「桜川です」
「ああそう、その人との出会いから昨日までのことよ」
ねーって顔見合わせる2人。マジか。オバサンのコミュ力恐るべし。
「じゃあわかるでしょ? 後藤くんは日菜ちゃんの将来のことを真剣に考えた上で離婚しようと――」
「あら、随分仁くんの肩持つのね。あーそうか、あなた妻になったことないものね」
はー!?
「そりゃ仁くんは日菜ちゃんのことを誰よりも考えてるんでしょうよ。でも全部自分独りで考えて従わせようとしてる。保護って言えば聞こえはいいけど、それは支配よ」
「え、だからちゃんと別れようとしてるじゃない」
「ちゃんとっていうのはお互い納得して別れることでしょう? 日菜ちゃんは全然納得してないじゃない」
あー、言われてみれば。
「受け身ばっかりじゃダメ。たまにはこっちから仕掛けなきゃ。だから家出してみたらどうかって提案したの」
えー!?
「ダメでしょ、そんな。後藤くん死ぬほど心配するよ?」
「したらいいのよ。そしたら自分がどれ程妻を必要としてたかわかるでしょ」
妻……ああ、妻なのか。
普通の結婚じゃない、夫婦生活もないって言ってたけど、日菜ちゃんは母と顔を見合わせて楽しそうに、でもちょっと悪い顔で笑ってる。
この人達は既婚者で、私は未婚者。
そこにどんな違いがあるのか、彼女達からは見えているのに、こちらからは見えない。
マジックミラーに囲まれた部屋に独り立ってて、どこを向いても自分しか見えない。
そんなイメージが浮かんで、ゾッとした。
最初のコメントを投稿しよう!