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「もう大丈夫です。私、行きますね」
日菜ちゃんが、離れていく。
私から。
そして後藤から。
「あ、あの、何かあったら――何もなくても電話してね? これからも友達でいてね?」
必死で言葉を投げたけれど、日菜ちゃんは悲しげに微笑むだけで行ってしまった。それを呆然と見送っていたら後藤が喋った。
「一条も帰れよ」
「帰るけど、その前に教えて。3人でどんな話し合いをしたの?」
「どんなって……日菜が弟を連れて帰って来て、再会出来たから弟の所へ行くって言うから、それは良かったって……後は細かい手続きの話をしただけだ」
「手続きって、離婚のこと?」
「ああ。それに学校のこととか事務的な話だよ。全部彼がやるって言うから書類を渡した」
「後藤くんはそれで納得したの?」
「ああ。一条が納得出来ないって顔してるのが不思議だよ」
――本当に?
涼しい顔をしているのが信じられなくて、顔を近づけてしまった。私と同じ高さにある後藤の顔。こんなにちゃんと見たのは初めてかも。地味な顔だけど、意外と整ってる。ずっと見てると綺麗に見えてくる。30代の男にしては艶やかな肌のせいかな。それに匂いだ。やっぱり後藤っていい匂いがする。
「でも疲れたし、もう帰ってくれないかな」
玄関に降りて、扉を開けられてしまった。
さっき日菜ちゃん達が出て行った扉。
まだ近くにいるかもと思ったけれど、もう彼女の姿は見えなかった。
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