8.続きは部屋で話そうよ

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元アイドルの子とは私も知り合いなので桜川陽が私の所にもやって来て、私がドルオタくんに迷惑顔で口説かれていたのを見かねて助けてくれたのが誤解を招いてしまったのだと嘘を交えて説明する間、田中さんはずっと不信そうな顔をしていた。 「で、店を出た後何処へ行ったの? 彼の部屋?」 「いえいえ、路地裏で少し話しただけです」 「本当に? その日じゃなくて別の日は?」 別の日って……田中さん何か知ってるのかな、嘘をついたら逆に何かを肯定してしまったりするのかなって返事が出来ずにいたら、大きな溜息をつかれた。 「言えないか。私一条さんと親しいつもりでいたけど、全然心許してくれてなかったんだね」 そう言いながら差し出された携帯の画面に、夏目涼の背中と私の背中。彼は立っていて、私は座っている。マンションの近くのカフェで会った時に撮られた写真だ。 「この服、この体型、一条さんよね? この前、私とテレビ見て夏目涼の話したじゃない。偶然会ったなら教えてくれてもよくない?」 どうしよう、どうしよう! 「え、ああ、これ夏目涼ですか? 気付かな――」 「嘘つき。会話してたのファンに目撃されてるよ」 田中さんは、あのカフェにいた夏目涼のファンをフォローしていた。サインして貰ったバッグと、写真断られたのに内緒で撮ってた夏目涼の写真が投稿されている。 「綺麗なお姉さんと話してたから遠慮しようかと思ったけど、勇気出して声掛けたら神対応してくれたって書いてあるでしょ。この引きの写真見る限り、該当する女性はあなたしかいないわよね?」 その写真には小さいけれど私の方を見てる夏目涼の横顔と、私の俯いた顔が写っていた。絶句してたら料理が届いた。田中さんは食べ始めたけれど、私は何も食べる気になれない。
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