8.続きは部屋で話そうよ

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「まあ私もちょっと嘘ついてたけど。一条さんがウチに来た日ね、あの番組に夏目涼が出るって知っててテレビつけたの。私、デビュー前からのファンなのよ。あのカフェは前から目撃情報あって近くに住んでるんじゃないかって噂されてる。その同じマンションに桜川陽も住んでるっていうのは本人がラジオで言ってたから間違いないわよね。で、昨日はどっちの部屋に泊まったの?」 昨日と同じ服を凝視しながら質問された。 どうしよう、なんて答えたらいいかわからない。 「ち、違います、昨日はその――」 「言い訳考えなくてもいいよ。一条さん、嘘下手過ぎ。そんなんじゃまた記事にされるよ。まあ桜川陽はライバルだからいいけど、夏目涼の足引っ張ったら許さない」 それだけ言うと黙って食事して、お先に失礼と代金をテーブルに置いて田中さんは行ってしまった。 独り残された私は頼んだパスタを食べ始めた。 以前にも田中さんと一緒に食べた、普通に美味しい店の美味しいパスタ。なのに全然美味しくなくて、何を食べているのかわからなくなって、とうとう食べることを諦めた。
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