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「10周年に向けて忙しいんじゃないの?」
「うん。忙しいから波美の癒しが必要なんだってば」
ああ、忙しくて疲れている時こそ無性にやりたくなるってやつね。
「ねえ教えてよ。教えてくれないと、もっとドレスアップして迎えに行っちゃうわよ」
それは止めてって、つい教えてしまった。
どうせ噂されて叩かれるなら、その人達がうらやましがることを実際やってやろうだなんて強かな気持ちがあったのかもしれない。
つまりこっちもストレス発散だ。
私達のデートはちょっと変わっていた。
あなたに女装は似合わないって言ったら、私が男装することになってしまったのだ。
まず彼のマンションに行って、行き先にあわせて着替えてから出掛ける。ラフな恰好で人気のラーメン屋さんに並んだり、スーツで決めて夜景の綺麗なレストランに入ったり。
「黙ってると完全に男だな。芸能記者に見つかったらゲイだったってスクープされそう」
「えっ、それ大丈夫?」
「女性と熱愛発覚よりいいんじゃない?」
どうかしら。ファンによると思うけど。
「まあ大丈夫だよ。俺は陽ほど目立たないし。このメガネ最強だろ」
太いメガネのフレームを少し指で持ち上げてニヤリと笑う。古そうなメガネ。レンズが薄型じゃないから明らかに目が小さく見える。それだけで崩れるような顔じゃないけど、雰囲気は大分変わる。遊んでそうなイケメンから真面目そうなイケメンに。彼が夏目涼だってバレなければ私は普通にしててもいいのかもしれないけど、また誰かに写真撮られて特定されるのは怖いし、男装してる方が安心。
でも夏目涼が私を男装させるのは、記者やファンに見つかることを避ける為だけではなかった。
「ねえ、今日はちゃんと着替えてくれた?」
下着の話。男装用の服は夏目涼が用意するのだけれど、その時に下着も渡される。前回そっちは着替えなくてがっかりされたから、今日は着てあげた。
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