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「いや……だって無理よね? あなたアイドルだし、まだ辞められないってさっき話したじゃない」
「確かに今すぐは無理だけど、俺は普通に思い描いてるよ、波美と結婚する未来」
絶句してしまったら、体を回転させて正面で向き合って片足掴みあげて頬刷りされた。
「俺と波美の子供だったら絶対美脚でしょ。娘がいいなあ。バレリーナにしよう。ね?」
欲しいのは美脚の遺伝子か。でもバレリーナは無理じゃないかなあ。もれなく人前に立つの苦手遺伝子もついて来ちゃうよ?
「美脚なら周りにいくらでもいるんじゃないの? なんで私?」
「なんでって、出会ったから。言ったよね? 案外出会いないって」
「でも好きな理由が美脚って……」
「ダメ? じゃあ何ならいいの? そりゃ相手の方のどこが気に入ったんですかなんてインタビューされたら温和な人柄ですとか答えるけど、男の本音なんてそんなもんだよ? 女だってぶっちゃけ金――あ、俺の収入と将来性が心配ってこと!?」
おっと、いきなり私を置いて立ち上がった!
「わかった。やっぱあの仕事受けるわ」
え? 何の話?
戸惑う私を置いて夏目涼はバスルームから出て行った。
あっという間に体拭いて誰かに電話してる。私もバスルームを出て自分の服に着替えた時には、もう話は済んでいた。
「アイドル一本じゃこの先厳しいから演技に挑戦しろってマネージャーに映画の仕事打診されててさ、大した役じゃないのにロケ地に拘束されるから迷ってたけど、やることにした。俺、俳優転向目指す。それならいいだろ?」
ほんと? 嬉しい!
って普通の女子なら答えるんだろう。
でも私には無理だった。
そこまで言われてもまだ夏目涼が私と結婚してもいいと思ってるなんて信じられなかった。もし本当だとしても、脚が綺麗なだけが取り柄の女が夏目涼の彼女どころか婚約者になってしまって大丈夫なのかと、喜びより先に不安が押し寄せてきた。
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