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カバンを抱えて後藤家のトイレへ。
さっき買った箱の説明を読んでスティックを取り出す。
やることは簡単。そして覚悟して結果を見た。
――ああ、なんだ。
スティックを箱に戻してカバンに入れて、部屋に戻って後藤に報告した。
「陰性だったわ。お騒がせしてすみませんでした」
「そうか」
良かったなとも残念だったねとも言われない。
そりゃそうだ、相手が誰でどういう状況なのか何も知らないのだからコメントのしようがない。それに私自身でさえ結果が出てみると単純には受け止められなかった。
満面の笑みで娘がいいなあと言う夏目涼の顔が浮かんでしまった。
「あーあ、この年で妊娠検査して陰性で喜ぶなんてね」
言ってから恥ずかしくなって後藤を見ると、案の定困った顔をしていた。
「あ、ごめん、食器片付けるね。ああその前にご馳走様でした。凄く美味しか……」
「無理しなくていい」
食器に伸ばした腕にポンと触れられた。
その瞬間、フワッと鼻先に後藤の匂い。
汗臭いとかそういうのではなく、多分これは男の匂い。
肌を重ねていても他の男からは感じない、不思議に落ち着く匂い。
黙って食器を運ぶ後藤。
まだテーブルに残っていた皿を手にその背中を追いかけた。
「ありがとう、後はいいからもう――」
背を向けたまま話し掛けてきた彼の背中を、思わず抱き締めてしまった。
彼がビクッとするのを押しつけてしまった胸で感じて自分でも驚いたけれど、私は開き直った。
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