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「ごめん、ちょっとだけ背中貸して」
流れ続ける水の音。
でも後藤は体から力を抜いてじっとしていてくれた。
抱きついてみると、それなりに広い背中。
落ち着く匂い、そして温もり。
もっと抱いていたいと思いつつ、うっかり項に唇をつけてしまう前に私は彼を解放した。
「ありがとう、落ち着いた。大変失礼しました、帰ります」
「あ、ああ……」
キョトンとした顔で振り向いた後藤が、凄く可愛く見えてしまう。
危ない、危ない。
これ以上ここにいたら私、何をしでかすかわからない。
荷物を抱えて玄関に向かうと、後藤に声を掛けられた。
「具合悪いなら、ちゃんと病院行けよ」
「そうだね、ありがとう。じゃあまた」
「ああ」
外に出て風を浴びたら冷静になった。
あーびっくりした。女の子にも自分から抱きついたことって多分ないよね、私。
全く何やってるんだか。
父が後藤の命の恩人だってわかったからって甘えすぎだわ。
でも――
いや、今日はもう何も考えずに早く寝よう。妊娠じゃなくて体調不良だってはっきりしたんだから。
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