9.無理しなくていい

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「ごめん、ちょっとだけ背中貸して」 流れ続ける水の音。 でも後藤は体から力を抜いてじっとしていてくれた。 抱きついてみると、それなりに広い背中。 落ち着く匂い、そして温もり。 もっと抱いていたいと思いつつ、うっかり項に唇をつけてしまう前に私は彼を解放した。 「ありがとう、落ち着いた。大変失礼しました、帰ります」 「あ、ああ……」 キョトンとした顔で振り向いた後藤が、凄く可愛く見えてしまう。 危ない、危ない。 これ以上ここにいたら私、何をしでかすかわからない。 荷物を抱えて玄関に向かうと、後藤に声を掛けられた。 「具合悪いなら、ちゃんと病院行けよ」 「そうだね、ありがとう。じゃあまた」 「ああ」 外に出て風を浴びたら冷静になった。 あーびっくりした。女の子にも自分から抱きついたことって多分ないよね、私。 全く何やってるんだか。 父が後藤の命の恩人だってわかったからって甘えすぎだわ。 でも―― いや、今日はもう何も考えずに早く寝よう。妊娠じゃなくて体調不良だってはっきりしたんだから。
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