77人が本棚に入れています
本棚に追加
「最後の彼女と別れたのだって、彼女が結婚を意識して俺の親のこと知りたがったからだよ」
「その彼女には……話したの?」
「ああ。母親に精神疾患があるって伝えたら、どうしてそんな大事なこと先に言ってくれなかったのって泣かれた」
そんな……
「彼女がどうしてもって言うから付き合い始めたんだけど、それでも断るべきだったって反省したよ。確かに彼女に申し訳なかった。まだ若かったから、つい欲望に負けた」
「申し訳なくなんてない! 後藤くんは何も悪くない!」
思わず叫ぶように答えたら、後藤は掴んでいたキャベツを箸から落としてこっちを見た。後藤がどんな気持ちで生きてきたか考えもせずに勝手に被害者になって泣いて責めるとかあり得ない。あー腹立つ。でもそんな女でも後藤の彼女だったわけで、口が滑って悪口を言わないように、私は生焼けのキャベツを口に詰め込んでバリバリ食べた。後藤はそんな私を唖然とした顔で眺めた後、笑い出した。
「やっぱ似てるな、親父さんに」
えー!? 急いでキャベツを呑み込んで私は尋ねた。
「え、顔? 今そんなに似てた!?」
「うん……昔食事しながら俺の悩みを聞いてくれた時に、仁は何も悪くない、そうやって自分を責めるな、もっと可愛がってやれって、口に食べ物詰め込んでさっきみたいな顔になってた」
そう言うと、後藤はまた笑った。
肩を揺らして。
そんな風に笑う彼を見るのは初めてで、思わずじっと見詰めてしまった。その視線に気付くと、後藤は笑うのを止めて俯いて言った。
「ごめん。いや、ありがとう」
照れたように少しだけまた笑って、後藤はさっき落としたキャベツを再び箸で掴んで少しずつ囓り始めた。ウサギみたいに。
ああ……わかったよ、ハゲ親父。
これは放って置けない。全力で守りたくなる。
でもしばらく黙って食事を続けた後、後藤は言った。
最初のコメントを投稿しよう!