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それから後藤のことばかり考えていた。
後藤のお母さんの精神疾患って何だろう。
後藤には聞けない。でも病名すら知らずに、私は気にしないよなんて言えない。だって後藤を自殺まで追い詰めた大問題だ。
中途半端な気持ちなら、彼を煩わせるだけだから押し殺すべきだろう。覚悟して積極的なアプローチを始めるなら、しっかり戦略を練らなきゃダメだ。あんなに可愛い日菜ちゃんと間違いを起こさずきっちり離婚した男なんだから。
いずれにしてもその前に解決しなければならない問題がある。
夏目涼との関係を、どうするかということだ。
「会いたかったー、俺もう待てないんだけど先にしていい?」
「え、ちょ、待っ――」
今日は朝まで自宅で過ごせると連絡を受けて会いに行ったら、着替えて食事に行くという行程を省いていきなりベッドに運ばれた。やっぱり私は彼女じゃなくてセフレなんじゃないかと思ってしまうけど――
「な、何?」
「波美だなーって思って」
夏目涼は、ベッドに寝かせた私の頬を両手で包んで、キスするわけでもなくじっと見詰めてから言った。
「俺、ずーっと会いたかったんだよ。波美は俺に会いたくなかったの?」
映画館のスクリーンにアップで映し出されても何の問題もない顔で甘い言葉を囁かれたことと、その顔を見ていても後藤の顔が脳裏から消えない後ろめたさで、ドキドキが2倍。
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