11.体だけでいいから

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アンコールに3度応えた後、10周年記念であり、またスプリングとサマーとしては最後のライブは終演した。 家に帰ってから夏目涼と冬真くんに短いメッセージを送ったけれど、どちらからも返事はなし。色んな人からメッセージが届いて埋もれちゃったかな。 諦めて眠った翌朝、電話の着信で目覚めた。 『波美、おはよう。ごめんね、昨日返事出来なくて』 「いいよ、忙しかったでしょう? 昨日は――」 『ごめん、後でゆっくり話そう。夕方には戻れるからウチに来てよ』 今日行って大丈夫かな。 あんな発表の後だし、記者が貼り付いてないかな。 『無理? 今日忙しい?』 「うーん、まあちょっと残業あるかもしれないけど……多分大丈夫だよ」 『やったー、待ってる。手ぶらでいいから早く来てね』 電話は切れた。 ところで今何時だろうって時計を見るとアラームが鳴る10分前だった。 起き上がって窓を開ける。 いい天気……じゃない。折りたたみの傘をカバンに入れて行かなきゃって思わせる灰色の空。 それでも朝の空気は気持ち良い。 窓を開けたままベッドを整えていたら門が開く音が聞こえた。 窓辺に戻って首を伸ばす。 見えた、後藤の背中。 おはようって呼びかけようと息を吸い込んで――止めた。 さっきの夏目涼の声が頭の中でリフレインしたから。
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