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「そんなことないよ。昨日、私落ちたもん。アイドルの夏目涼に。だけどそれは、現実の恋とはちょっと違うのよ。凄く身勝手だけど、アイドルの夏目涼には綺麗なまま芸能界の頂点まで駆け上がって、誰もが祝福する相手と結ばれて欲しいの」
「波美はリアコじゃないってことか」
「うん。今こうしていても落ち着かないのよ。アイドルの夏目涼を推しながら素のあなたと付き合うなんて、私には無理だわ」
沈黙。
どうしよう。この後、どうしたらいい?
「あの……今日はごちそうさまでした。本当に美味しかった。それに今まで色々ありがとう。あなたとのことは、誰にも何も話さないから安心して。じゃあ私はこれで――」
「帰すわけないだろ」
「え、ちょ……」
立ち上がったら掴まった。
抱き上げられてベッドの上。
「え……するの? 私抱かれてる時でも別の男のこと――」
「そんなの今更だろ。ずっとそうだったんだから。それでも俺は波美が欲しい。体だけでいいから、もう少しだけ俺の側に居てくれ」
私をベッドに張り付けて、真上から見下ろす夏目涼の表情が怒りから悲しみに変わっていく。大きな瞳が濡れていく。
それを見ても大きな決心は変わらなかったけれど、小さな決心は簡単に崩れてしまった。
「いいよ」
でもこれが最後。
いつもは恥ずかしくてすぐに閉じてしまう目を、出来るだけ開いていた。恋人としての彼を覚えておこうと思ったから。こんなにも綺麗な男に抱かれたことをしっかり焼き付けるように。
そして感じていた。
何時にも増して優しく丁寧な彼の指、唇、そして――
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