11.体だけでいいから

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頷いて靴を履く。 これでもう二度とこの部屋に来ることはない。 そう思った瞬間、急に涙が溢れてきそうになって背を向けたまま挨拶した。 「本当にありがとうね。じゃあ元気――」 涼の長い指が肩に触れる。 抱き締められる前に身をかわして、私はドアノブに手を掛けた。 「ずっと応援する。絶対推し変しない。夏目涼が芸能界に居る限り――ううん、引退してもずっと応援し続けるよ」 一方的に言葉を投げて部屋を出た。 返事なんてないのが当たり前。私はもう夏目涼のファンの1人になったのだから。 それでもエレベーターに1人になると泣きそうになったけれど、冬真くんに泣き顔なんて見られて慰められたら困るので何か違うことを考えて紛らわせようと思ったら、何故かハゲ親父のにやけた顔が浮かんで来た。 「なんで……え、なんで!?」 脳内ハゲ親父に向かって呟きながらエレベーターを降りた所で、現実に待っていたその人に向かって、私は思わず叫んでしまった。 「シー、真夜中ですよ」 ――日菜ちゃん! 「車に乗ってから話しましょう。あっちです」 可愛いピンクの車を想像したけれど、割とゴツい白の車だった。 そもそも運転するのが意外だし、色々びっくり。 「えーっと何から……あ、さっきまで一緒だったんですけど、冬真がお祝いメッセージありがとうって言ってました」 「一緒だったって……」 「聞いてません? 冬真もこのマンションに住んでるんですよ。それでさっき涼さんも部屋にいるはずだから波美さん来てるかもって連絡して貰いました。そしたら調度波美さんも帰る所だって聞いて、現在に至るです」 そういうことか。また同じマンションに住んでるなんて聞いてなかった。
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