11.体だけでいいから

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「冬真くんだけ? それとも桜川さんも……」 「陽も一緒でした。実はあれから直接は会えてなくて、今日やっと会えたんです」 10周年記念ライブが終わるまでは時間がないのとマスコミを警戒して、結局冬真くんの携帯と弟さんの携帯を使ってビデオ通話しただけだったらしい。 「じゃあまだ2人きりでは会えてないのね」 「ええ。それに弟も一緒に来たんですよ。今酔いつぶれて彼の部屋で寝てますけど」 へー、あの真面目そうな弟さんがねえ……ってことは―― 「弟さん、桜川さんのこと許したの?」 「はい。すっかり懐いちゃいました」 流石、桜川陽! 「じゃあ日菜ちゃんと桜川さんは元通りに……」 「元通りってわけでは……それに1年位直接会うのは自粛することにしたんです」 「えっ、せっかく再会したのに?」 「はい。やっぱりかけがえのない存在だっていうことはわかったんですけど、だからこそ今はお互い邪魔にならないように自分のことに集中しようって」 日菜ちゃんは真っ直ぐ前を向いて運転しながらそう言った。 凜とした横顔。つい最近会ったばかりなのに、また少し印象が違う。凄い勢いで成長しているんだろうなと思いながら、彼女が身を包んでいるスーツを見て尋ねた。 「ところで日菜ちゃん、その服装は変装なの? それとも……」 「ああ、弟にこの車で職場に迎えに来て貰ってマンションに行ったんです」 「えっ、就職したの? どんなお仕事?」 「アイドルの衣装とか作る会社で、お客様の希望を聞いたりご提案したりする仕事をしてます」 なるほど。それは元アイドルにピッタリな仕事だけど―― 「日菜ちゃん自身はもうステージに立たなくていいの?」 「はい。私、自分が何かするより誰かを応援する方が性に合ってるんですよ」 そっか。こんなに可愛いのにね……
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